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 クーデターが起きるのではないか――。資産が2700億円規模で全国最小銀行の佐賀共栄銀行で頭取が解任されるとまことしやかに噂された時期がある。頭取に就任してまもない佐賀共栄銀の二宮洋二が、店舗・人員削減の改革を遂行しようとしていた2014年度だ。大胆なリストラを進めようとする二宮に対して、頭取以外の当時の経営陣は猛反発。両者の溝は埋まらず、最終的に旧社内取締役5人が2年で全員退任し、今も現役の二宮が改革を断行した。そしてその後、佐賀共栄銀は13年間低下が続いていた貸出金利息収入の前年比プラスを達成することになる。日経ビジネス3月16日号ケーススタディーで紹介した佐賀共栄銀。地方銀行は、新型コロナ感染拡大の影響で、厳しい経営が予想される。佐賀共栄銀の真価が問われるのはこれからだが、二宮が就任してから6年をかけて全国最小の銀行が断行してきた経営改革の軌跡を追った(敬称略)。
佐賀市の佐賀共栄銀行本店。1949年、中小企業支援のため、地元の有志で設立した「佐賀無尽」が始まりだ

 「今期は皆さんにシステム移行作業も、営業も、両方やってもらって、かなりの負担を強いてしまいました。それでも目標を達成しそうです。皆さんの頑張りは大変ありがたい。本当に感謝を申し上、げ、た、い……」

 業績が確定する年度末が迫った2019年3月26日午後。佐賀市の佐賀県教育会館の一室で開かれた支店長ら約80人が集う会議の最後のあいさつで、佐賀共栄銀行頭取の二宮洋二は、声を震わせてこう礼を述べ、涙を流した。68歳の“男泣き”だった。

 会議は午後0時50分から始まった。各支店長から今期の営業成績の報告を受けた後、目標である貸出金利息収入の前年比プラスをギリギリ達成しそうだと分かり、「何とか目標を越えよう」と熱い議論を交わした。会議の途中、出席者や頭取自らが電話で各取引先への融資を依頼するなどして奔走。やがて、この日新たな融資を上積みすることができ、利息収入のプラスを見込むことができた。二宮は、行員一人ひとりの頑張りに胸が熱くなった。

 佐賀共栄銀は1949年、地域の中小企業を支援する目的で地元の有志らで設立した佐賀無尽が始まりだ。その2年後、中小企業金融専門機関として佐賀相互銀行に改組。1989年、普通銀行に転換し、現在に至る。佐賀県内には2つの銀行があり、もう一つの佐賀銀行と共に金融面で地元経済を支えてきた。とはいっても、佐賀共栄銀は資産規模が佐賀銀の約9分の1と極小だ。経営基盤が脆弱で、全国の地方銀行で資産規模は最下位の103位だ。金融緩和で低利が進む中、事業立て直しが急務だった。

 そんな中、6年前の14年、財務省出身の二宮洋二が頭取に就任した。二宮が赴任後にすぐ改善すべきだと感じたのは、営業現場の自信のなさだった。低利環境が続く中、優良企業に対して資金力で勝る他行は0%台の融資を提示して、顧客を奪いに攻勢をかけてきた。「他行は金利0.9%だけど、佐賀共栄銀さんは何%出すの?」。取引先からこうプレッシャーをかけられると、行員は他行の金利動向を後追いする形であっさりと低利を提示するありさまだった。

 そんな戦い方をしていては他行に勝てない。そう危機感を持った二宮は、幹部会議で「うちの金利はまあまあ高い。でも、それはその金利に見合ったサービスをするからだ。だから取引先に自信を持ってそのことをきちんと説明してほしい」。取引先としっかり向き合って「金利交渉」をするよう何度も求めた。さらに、「低利の融資を増やすことよりも金利を重視して営業してほしい。金利0%台の融資は無理にしなくていい。それで取引先を失ったとしても責任を問わない」と訴えた。

 金利重視の営業を推進することには自分なりの根拠があった。低利環境が続く中、融資の増加分よりも金利低下分の方が経営への影響は大きかったからだ。融資×金利で算出する「貸出金利息収入」は前期比で減少を続けており、経営状況は悪化の一途をたどった。身の丈に合った金利を得ることで、利息収入の減少に歯止めをかけようとしたのだ。

 取引先に高い金利を求めるということは、低金利下では顧客離れにつながりかねない。とはいっても、収益を確保するためには一定量の融資を確保しなければならない。そのため、就任直後に3000社だった融資先の企業数を5年間で5000社に増やすという目標を新設した。融資先数を増やすことは、貸し倒れのリスクを分散させる狙いもあった。

 こうした改革を実現するために取り組んだのが一人ひとりの意識を変えることだった。多くの銀行は、金利低下が進む中、融資量を増やすことで金利低下分をカバーして経営を維持している。低金利下局面では「融資の増加」を目標にすることが銀行の常識だった。そして金融機関に長年染みついたそうした感覚は、そう簡単に抜けない。

佐賀共栄銀行頭取の二宮洋二は14年6月に就任。収益構造改革を進めた