ロシアのウクライナ侵攻の開始から10日以上がたち、主要国による経済制裁が強化され世界経済への悪影響の懸念は強まり続けている。一方で外為市場に目を向けると、この間のドル円相場は1ドル=115円前後の小動きにとどまっている。かつて盛んに指摘された「有事の円買い」の姿は見当たらない。外為市場の力学はどう変化してきたのか、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストに聞いた。

植野大作(うえの・だいさく)氏
植野大作(うえの・だいさく)氏
1988年4月、野村総合研究所入社。米国駐在など経て2000年6月に国際金融研究室長。04年に野村証券へ転籍。金融経済研究所の国際金融調査課長として為替調査全般を統括、09年に投資調査部長。同年に外為どっとコム総合研究所の創業に参画。12年に三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、13年より現職。

ロシアによるウクライナ侵攻で、世界経済の不確実性が一段と増しています。外為市場ではかつて「有事の円買い」と呼ばれた円高が生じていましたが、足元のドル円相場では円高がさほど進んでいません。どうしてでしょうか。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジスト(以下、植野氏):大きく2つの理由があります。1つ目は、確かに株価が崩れると円買いの連想が働きますが、足元では、ユーロやポーランド・ズロチなど幅広い通貨に対して、全面的なドル買いが起きています。ドルは世界一の軍事大国の通貨であり、世界中で使われる基軸通貨で、市場での流動性も円より高い。この「有事のドル買い」と「有事の円買い」が綱引き状態になっています。

 もう1つは、需給面で日本の貿易収支が赤字に転落していることです。国際商品は基本的に決済にドルを使います。日本の1月の通関統計をみると、貿易赤字は2兆円規模に上っており、輸入のためのドル買い需要がそれなりに出ていると考えられます。

 既に原油価格が1バレルあたり100ドルを超える水準にあり、ウクライナやロシアは穀倉地帯で貴金属の輸出国でもあります。コモディティー価格が上昇傾向にあるなかでは、ドル買い需要が強くなるとの見方から、円買いも限定的になります。逆に言えば、ユーロやズロチといった他の通貨に対しては円買いがそれなりに進んでいます。

 昭和や平成の頃とは風景は違っています。当時は貿易黒字体質で、国際商品価格が少し上がったくらいでは赤字になりませんでした。ところがいまや国内の工場は減り、貿易赤字体質になっています。もはや「リスクオフ時に買われる通貨」というオーラは薄まっているのでしょう。

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