経営者の高齢化により、2025年までに約60万社の「黒字廃業」が懸念される中小企業。解決策の一つとして注目されるM&A(合併・買収)仲介に、オリックスが参入した。21年10月に業界大手5社による自主規制団体が発足する一方、専門業に多い「両手仲介」は、構造的に利益相反をはらんでいるという指摘がある。オリックスの松崎悟専務執行役は、「専門業者ではないからこそ、オーナー経営者にとっての『正しい』行動を進めることができる」と強調する。(関連記事:「黒字廃業」予備軍60万社、救うはずのM&A仲介業にモラル問題

2021年11月にM&A仲介への本格参入を発表されました。経緯を教えてください。

松崎悟・オリックス専務執行役(以下、松崎氏):オリックスを創業以来、育て、支えてくださった地方の企業数が減るかもしれないという大きな危機感です。

 オリックスは1964年に設立し、まもなく還暦を迎えます。全国80カ所、約900人の営業職員が、祖業のリースだけでなく、太陽光発電や従業員の福利厚生など様々なビジネスを展開するようになりました。お付き合いしている中堅中小企業のオーナーも年齢を重ね、相続、事業承継のニーズが増えてきました。対応しないのが不自然だ、ということです。事業承継に貢献することで、各地域のオリックスの存在感、評価が高まるという狙いもあります。

<span class="fontBold">松崎悟(まつざき・さとる)氏</span><br>1966年生まれ。リース会社を経て、97年オリックス入社。投資銀行畑を歩み、社長室長や経営企画部長を経て、19年6月に取締役兼常務執行役。20年1月から取締役兼専務執行役。
松崎悟(まつざき・さとる)氏
1966年生まれ。リース会社を経て、97年オリックス入社。投資銀行畑を歩み、社長室長や経営企画部長を経て、19年6月に取締役兼常務執行役。20年1月から取締役兼専務執行役。

とすると、もう少し参入が早くてもおかしくはなかった、ということでしょうか。

松崎氏:会社を売却するというのは、オーナー経営者の核心を突く話です。慎重な対応が求められます。営業部隊が十分に対応できるか、ためらっていたところはありました。

 そこで、当初はオリックスがオーナー経営者から株式を譲り受ける手法を取りました。社内で「マイクロ事業承継」と呼んでいます。株を引き受けている間に、次の経営者を見つけるか、社内で教育して引き上げるかで承継します。事業の成長性が見込みづらくとも、事業を存続して承継ができる企業であれば対象になります。ただ、全ての企業の株式を引き受けることはできないので、オーナーの同意を得て、M&A仲介業者の紹介も行っていました。

 20年に中小企業庁が「M&Aガイドライン」をつくり、21年には(M&Aの専門知識を持つ支援機関の信頼を高める)「M&A支援機関登録制度」を設けました。マーケットの透明性を高めようという動きが明確になったことが、仲介業参入を後押ししました。

M&A仲介業には、売り手と買い手の双方と契約を結ぶ「両手仲介」による利益相反が指摘されています。売り手にとって、M&Aは一生に1回あるかないかですが、買い手は今後も買収を行う可能性があり、仲介業者からすれば買い手側に有利な条件を付けた方が得だというインセンティブが働きやすくなります。御社ではそのような心配はないのでしょうか。

松崎氏:正直言って、一部の仲介サービスの質の荒さは、聞こえていました。営業マンの報酬がM&Aの成約と連動している点も影響しているのでしょう。我々はリース、不動産仲介、生命保険の販売など複合的なサービスを提供しています。年間の利益計画はありますが、個々のサービスをいくら売るという目標はありません。「何を今これぐらい売りたい」というのはうちの事情ですから。

 M&A仲介だけで利益を上げようとは考えていませんし、営業マンは案件をとってこなければ給料が下がるわけではない。焦らずに「正しい」行動を進めることができます。

 普段から「今後をどう考えていますか」「ご子息はいらっしゃらないですよね」という話をしているので、そこに寄り添う。ある日は「もうそろそろ俺も引退だな、いくらで会社が売れるかな」と。翌日は、「まだやらなきゃいけない」とオーナーの心情は行ったり来たり。

 一度決めてすっと売れる人なんてほとんどいないと思います。(M&A仲介業者側が)「今ならこの金額で売れるので、売った方がいいですよ」と働きかけるのは、当たり前の形ではない。

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