(写真:PIXTA)
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 保険の販売時、年金や医療保険などの公的保障をどれくらい受け取れるかきちんと説明すべきだ――。2021年12月28日に金融庁が改正した保険営業に関する監督指針の内容に、生保各社が困惑している。

 民間の生命保険や医療保険は、公的な社会保障制度を補完するものと位置づけられる。しかし、顧客が公的保障に関する情報をきちんと理解しないまま、生保営業員の言うままに保険契約してしまうケースが後を絶たず、過剰契約等のトラブルにもつながる点を、金融庁はかねてより問題視してきた。今後は生保各社に公的保障の説明を求めることを通じ、改善を促す方針だ。

 年金の受給開始年齢引き上げや、受給額が現役世代の手取り月収の何%になるのかを示す所得代替率の引き下げ見通しなどを受け、退職後の生活の糧となる年金に対する将来不安は高まっている。

 加えて、今や日本人の2人に1人ががんになるというデータもある時代だ。がん以外にも、生活習慣病や認知症など、年を取るとともに病気にかかる確率も増えるだけに、高額な医療費をまかなえるのかという心配も増えている。生保各社が貯蓄性の保険や医療保険の販売に力を入れているのは、総じて「長生きリスク」に対する備えを強調した方が、保険を売りやすいからである。

 その一方で、公的な備えでもある程度のリスクはカバーできる。例えば、公的医療保険には、医療費の家計負担が重くならないよう、毎月の医療費が一定額を超えると超えた分が支給される高額医療費制度が存在する。こうした情報を知った上で民間保険の必要性を適切に判断できるのが理想だが、必ずしもすべての人に周知されているわけではない。

 投資信託や保険といった金融商品の販売時、顧客と営業員の間には総じてこのような「情報の非対称性」が発生しやすい。その解消を狙うべく、金融庁は近年「顧客本位の業務運営」を各金融機関に求めているものの、取り組みはいまだ道半ばだ。今回の監督指針の改正も、顧客本位の保険契約とは思えないトラブルが後を絶たない保険業界に一石を投じようとした金融庁の姿勢を表したものといえる。

 しかし、指針改定に先立って募集・公表されたパブリックコメントの内容からは、生保業界からの「反発」とも取れる様子が浮かび上がってくる。「国の制度を国民に伝えるのは政府や所轄官庁の仕事ではないのか」「真面目に情報提供を行っているサービス提供者や募集人の手間が増えるだけだと思う」といった声が寄せられていた。

 公的保障に関する説明資料等は、生保各社でも用意されている。これまでの取り組みでも「公的保障には言及している」と言えなくもないだけに「追加で何をすればよいのか」と戸惑いの声は広がっている。

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