菅義偉政権が発足して2カ月。菅首相は行政のデジタル化など肝いりの政策をスピード重視で推進し、2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする脱炭素も看板政策に据えた。政策面で経済産業省が主導権を握った安倍晋三政権から首相官邸・主要官庁の力学や調整プロセスはどのように変わったのか。舞台裏を報告する。

(写真:つのだよしお/アフロ)
(写真:つのだよしお/アフロ)

 「華美な言葉はいらない。特別な広報戦略もいらない。国民目線で国民がおかしいと思うことをやっていけば評価される。菅首相はそう思っている」

 今や、菅首相の最側近として幅広い政策分野を取り仕切る国土交通省出身の和泉洋人首相補佐官は首相の基本姿勢についてこう語る。

 その言葉通り、首相はスピード重視で肝いりの「菅案件」と称される具体的政策の推進に注力している。

迅速に進む「菅案件」

 政権が船出した翌日に早くも首相官邸に河野太郎行政改革・規制改革相、平井卓也デジタル改革相、田村憲久厚生労働相を個別に呼び、規制改革や行政のデジタル化、不妊治療への保険適用など国民の関心が高い看板政策についての対応を指示。その後も頻繁に河野氏らに「あれはどうなっている?」と問いただしては迅速な取り組みを求めた。

 また、新政権の「見せ場」となる10月26日の就任後初の所信表明演説では、国民に身近なテーマや近い将来に成果を実感しやすい個別政策のアピールに重点を置いた。

 政権のスローガンや具体的なエピソード、故事を盛り込み、演説全体をストーリー仕立てにすることにこだわった安倍晋三前首相との違いは鮮明だ。「大局観やビジョンがよく見えないと言われるが、そもそも首相は安倍内閣時代の演説の過度な演出には懐疑的だった」と首相周辺は明かす。

 こうした「イメージ戦略より成果の積み上げ」を重視する首相の意向を踏まえ、菅案件は着々と前進している。

 首相が官房長官時代からこだわる携帯電話料金の値下げについては、総務省が10月末に値下げに向けた政策集を公表。その直後にKDDIとソフトバンクが傘下の格安ブランドで20ギガ(ギガは10億)バイトのデータ容量を安価に提供する新プランを発表した。NTTが完全子会社化するNTTドコモも近く新プランを出すとの観測が出ている。

 不妊治療の負担軽減を巡っては、首相が意欲を示す不妊治療の保険適用が2021年後半以降となるため、早ければ年度内にも助成を拡大する方向が固まった。

 首相が「縦割り打破」の方策として重視する規制改革では、行政手続きで必要な押印を今年から来夏にかけて順次、廃止することが決まった。押印が必要な行政手続きは現在1万5000件程度あるが、このうち99.4%で廃止する。住民票の写しの交付請求や税金の確定申告、婚姻・離婚届など身近な手続きで押印がなくなる。

 行政のデジタル化を進める要と位置づけるデジタル庁に関しては、首相をトップとする直属機関とし、全省庁のシステム統一を担当することになった。21年中に発足させ、政府や自治体のシステムをデジタル化する司令塔とする。すべての行政システムを25年度までに統一する方向で、利便性向上につなげる。

 また、地方銀行や信用金庫の再編を促す環境整備も進みつつある。日銀は経営改革に取り組んだ地銀や信金に対し、日銀の当座預金の金利を年0.1%上乗せすると表明。政府も経営統合する地銀などのシステム統合費用の一部を補助する仕組みを来夏に始める方針だ。

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