第49回衆院選は10月31日投開票され、自民党は公示前の276議席から減らしたものの、単独で国会の安定運営に必要な「絶対安定多数」を確保した。岸田文雄首相は国民からの信認を得たとして選挙戦で掲げた政策の具体化を急ぐ。立憲民主党は多くの選挙区でほかの野党と候補者を一本化して選挙戦に臨んだが、議席を減らして共闘は不発に終わった。来年夏には次の重要な政治決戦となる参院選が控える。与野党とも追い風が吹かず自力勝負となった今回の衆院選を踏まえ、支持層の拡大や政策など直面する課題への対応力が先行きを左右しそうだ。

 「自民党総裁選挙から組閣、そして解散・総選挙とスピード感を持って進めてきた。国民の皆さんの信任を得た今、みなさんから頂いた1票1票の重みを胸に、今後はスピード感を政策実行の面で発揮していく」

 岸田文雄首相は11月1日の記者会見で、衆院選の結果を踏まえこう強調した。

 衆院選は4年前の2017年10月以来。自民党は安倍晋三総裁の下での過去3回の衆院選で、いずれも6割超の議席を獲得する大勝を重ねた。旧民主党から政権を奪還した2012年、消費税率の引き上げ延期を掲げた2014年、小池百合子東京都知事の新党立ち上げで野党勢力が割れた2017年と、いずれも情勢が自民にプラスに作用したためだった。

 それが今回の選挙戦は、野党側の調整により自民、公明両党と、野党第1党の立憲民主党などの野党勢力が対決する構図となった。立民と共産、国民民主、れいわ新選組、社民の5党は小選挙区289のうち7割強で候補者を一本化した。

小選挙区の7割強で野党一本化も……

 過去3回の衆院選は選挙戦のスタート時点で自民が優位に立ち、ほぼそのままゴールにたどり着く展開が続いた。

 だが今回は、立民などが政権批判票をまとめる態勢を整えたことに加え、10月24日の参院静岡選挙区の補欠選挙で自民党候補が敗北するなど発足間もない岸田内閣への追い風が吹かないことから終盤まで接戦区が多くなった。

 与野党がそろって新型コロナウイルス対応や経済対策の柱として給付金など「分配」策を主張。安倍政権時とは異なり憲法改正を巡る議論が盛り上がりを欠くなど、争点が見えにくい選挙戦となった。

 それでも、蓋を開けてみれば、自民は公示前の276議席から減らしたものの、追加公認を含め「絶対安定多数」といわれる261議席を獲得した。これは衆院の全ての常任委員会で委員長ポストを独占し、委員の数でも過半数を確保する議席数を指す。自民は過去3回の衆院選において、単独でこの絶対安定多数を確保したことが安倍長期政権の原動力となった。今回で4回連続してこのラインに達したことになる。

自民党は「絶対安定多数」となる261議席を獲得した(代表撮影/ロイター/アフロ)
自民党は「絶対安定多数」となる261議席を獲得した(代表撮影/ロイター/アフロ)

 ただ、野党の一本化で党幹部や閣僚経験者らが苦戦した選挙区も少なくなかった。神奈川13区で甘利明幹事長が立民の新人候補に敗れ、比例代表で復活当選となった。東京8区は石原伸晃元幹事長が立民候補に敗北し落選した。

 自民の幹事長が小選挙区で敗北するのは初めての事態だ。甘利氏は岸田首相に幹事長を辞任する意向を伝えており、首相は早急に今後の対応を決める考えだ。

 公明は候補を擁立した9小選挙区で当選した。比例代表と合わせて32議席を確保し、公示前から3議席増やした。

 これに対し、立民は野党第1党の座は保ったが、公示前の110議席から減らし、100議席を割り込んだ。小選挙区こそ公示前の48議席から57議席へと伸ばしたものの、接戦区で競り負けるケースが多かったほか、比例代表の議席が減り、共闘効果は限定的なものに終わった。

次ページ 「風」吹かず自力勝負に