自民党の石破茂元幹事長が9月の自民党総裁選大敗の責任を取り、自身が率いる派閥の会長を辞任した。非主流派色を薄めて再起を図る構えだが、次期総裁選への出馬は困難との見方が広がり、派閥を離脱する議員が相次ぐ可能性もある。菅義偉首相と明暗が分かれた背景には、感情と人間関係に左右される議員の行動原理を石破氏が軽視しがちだったことも挙げられる。

(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 「これまで総裁選挙に4回立候補し、直近の2回は石破派を中心に支援してくれる皆さんとともに戦ったが、期待に応えることができなかった。責任を取ることが私のとるべき道だと考えた」

 10月22日。石破茂元幹事長は自身が率いる派閥の臨時総会で所属議員に派閥会長を辞めると表明した後、記者団にこう語った。そのうえで、石破氏は派閥にとどまり、次期衆院選に向け所属議員の支援に全力を挙げる意向も示した。この臨時総会の出席者によると、辞任表明した石破氏に対し一部の議員から慰留する声があがったが、石破氏が翻意することはなかった。

急減した国会議員票

 石破氏にとって4度目の挑戦となった9月の自民党総裁選を巡っては、党内7派閥のうち5派閥が菅義偉首相を支持。「菅グループ」と称される無派閥議員の集まりも菅陣営に参画する中、石破派内では出馬見送り論が浮上したが、それでも石破氏の判断で出馬に踏み切った経緯がある。

 だが、結果は国会議員票26票、地方票42票の合計68票にとどまり、菅首相の377票、岸田文雄前政調会長の89票に及ばず最下位に沈んだ。

 特に石破派にとってショックだったのが、国会議員票が出馬に必要な20人の推薦人をわずかに上回る26票に終わったことだ。所属議員が19人の石破派は自前では推薦人を用意できないため他派閥や無派閥議員からの支援が欠かせない。だが、今回獲得した国会議員票は2018年総裁選時の73票から大きく減っており、安倍晋三前首相への批判もいとわない「党内野党」路線の行き詰まりが鮮明になった格好だ。

 こうした状況を受け、石破氏は総裁選後に所属議員と個別に面談し、今後の対応を検討してきた。次期総裁選への展望も開けない中、派内には石破氏の判断への不満や非主流派として冷遇され続けることへの不安を口にする議員が少なくなかった。同派のある議員によると、石破氏は幹部らから「いったん身を引くべきだ」と諭されたことも考慮し、辞任を決断したという。

 石破氏は臨時総会で「菅政権を全力で支える」と述べ、政権批判の封印を宣言。今後は党内野党の立ち位置を改め、再起を目指す考えをにじませた。

 ただ、会長を退いたことで、派内では石破氏が来年の総裁選に出馬するのは困難との見方が広がっている。石破派は石破氏を首相にする目的で2015年に旗揚げした新興派閥だけに、石破氏の求心力が急低下すれば今後派閥を離脱する動きが相次ぐ可能性もある。

 石破氏は過去数年、各種世論調査で常に「次の首相にふさわしい人」の上位に挙げられてきた。それなのに、特に国会議員の支持で菅首相に大きく水をあけられ、今後の展望が描けない状況に追い込まれたのはなぜか。

 勝ち馬に乗って主流派に加わらなければ人事などで冷遇されかねない──。9月の総裁選での「菅圧勝」の背景に各派閥のそんな切実な事情があったのは間違いないが、それだけではないだろう。

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