国内旅行の需要喚起策「Go Toトラベル」事業は7月22日の開始直前まで迷走した。事業の開始時期や補助対象、キャンセル料の補償などを巡り政府・与党の方針が二転三転した背景には、誤算の連鎖がある。

 「今は(新型コロナウイルスによる)死亡者も重症者も少ない。でも新規感染者数が増えている中のスタートになってしまい、どうしても不安が広がる。タイミングが悪かったね」

 「Go Toトラベル」事業開始直前、安倍晋三首相は周辺にこう漏らした。

「開始のタイミングが悪かった」

 Go Toトラベルは新型コロナの感染拡大で苦しむ観光業や飲食業などを支援する「Go Toキャンペーン」の柱の事業だ。大きく落ち込んだ需要を喚起する目玉事業として、首相官邸や経済産業省が主導して4月末に成立した2020年度第1次補正予算に総額約1兆7000億円のキャンペーン事業費を計上した。

 当時の国会審議では、新型コロナの感染が収束するか見通せない中でのキャンペーン事業促進に疑問の声も出ていた。だが、需要喪失に苦しむ全国の観光業界や飲食業界からの強い要望があったことに加え、「梅雨に入り、気温が上がっていけば新型コロナの感染拡大は和らぐだろうとの楽観的な見方もあった」と政府関係者は語る。

 5月25日に緊急事態宣言を全面解除した際、安倍首相は「1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができた」と強調。感染防止と経済再開の「両立」に軸足を移すべきだと訴えた。その後消費の回復傾向が続き、輸出や生産も底打ちしつつあり、政府・与党内には安堵の空気が広がり出していた。

 だが、7月に入り都内の新規感染者が連日3桁に達し、宿泊療養用ホテルの不足や医療体制への懸念などがメディアで報じられ出すと、一時は歓迎ムードも流れたGo Toトラベルへの世論の受け止めは次第に変わっていく。

 そしてGo Toトラベル事業開始直後の23日、都内を始め全国各地で1日当たりの新規感染者が過去最多を更新する事態になった。PCR検査の検査数増加などが背景にあるとはいえ、都市部を中心に陽性率も上昇。市中感染が広がっている可能性が高く、新型コロナへの警戒感が急速に強まっている。

 自民幹部は「ちょっと想定外の展開だ」と漏らす。感染拡大に歯止めが掛からない最中でGo Toトラベル事業を開始することになったのが政権にとって1つ目の誤算だ。

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