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新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言の延長を受け、政府・与党は家賃支援策など追加経済対策の策定を本格化する。世論や与野党の要求に背を押される形で作業を急ぐが、一連の対応には戦略性を欠いた対策の逐次投入といった指摘も根強い。安倍晋三政権で進んだ財務省の凋落という事情が少なからぬ影響を及ぼしている。

(写真:西村尚己/アフロ)

 「スピード感が大切なので、政府としても全力で取り組んでいきたい」

 自民、公明両党は5月8日、新型コロナウイルスの影響で家賃支払いが困難になった中小事業者などへの支援策で合意した。自民党の岸田文雄政調会長らから提言を受け取った安倍晋三首相はこう語り、対応を急ぐ考えを強調した。

 中小企業などへの家賃支援策を巡っては、立憲民主、国民民主など野党5党が議論を先行。4月28日には日本政策金融公庫が家賃を肩代わりする法案を国会に提出済みだ。

 自民、公明両党がまとめた家賃支援策は、売り上げが2019年よりひと月で50%以上減少した事業者や、3カ月で30%以上減少した事業者などを対象に、中小・小規模事業者は月額50万円を上限に、個人事業主は同25万円を上限に、賃料の3分の2を原則半年間、給付する内容だ。

 家賃支払いに苦しむテナント(借り手)に政府系や民間の金融機関が無利子・無担保で融資し、その上で、家賃分を国が支援する仕組みを想定している。給付は6月にも開始し、約2兆円の予算が必要になる見通しだ。

 公明党が家賃は地域差が大きいため自治体の支援策に国が財政措置を講じる案を主張していたことを踏まえ、提言には2020年度補正予算で1兆円を確保した地方創生臨時交付金の拡充も盛り込んだ。政府は与党案を基に具体的な制度設計を急ぐ。

家賃支援などで2次補正へ

 政府・与党は家賃支援に加え、経済的に困窮する学生の救済策、雇用を維持しながら従業員に休業手当を支払う企業に国が一部を負担する雇用調整助成金の拡充などを柱とする追加の経済対策作りを進める。財源の裏付けとなる20年度第2次補正予算案を早期に編成し、今通常国会中の成立を目指す方針だ。

 1人当たり一律10万円給付など事業規模117兆円超の緊急経済対策を盛った第1次補正予算が4月30日に成立したばかりだ。それでも、緊急事態宣言の5月末までの延長で社会経済への影響が一層深刻化するため、追加対策を急ぐ必要があると判断した。

 ここにきて矢継ぎ早に対応策を進める安倍政権だが、各種世論調査では新型コロナの感染拡大を防ぐための政府のこれまでの対応について、厳しい評価が続いている。日本経済新聞社が8~10日に実施した世論調査では、政府の取り組みについて「評価しない」との回答が55%と前回調査から11ポイントも上昇した。

 2月末の全国一斉の休校要請や全世帯への布マスク配布、首相が自宅でくつろぐ動画公開など安倍首相が側近の「官邸官僚」と決めた策には与野党から批判が噴出した。さらに補正予算案の国会提出直前に収入が減少した世帯への30万円の現金給付案を撤回し、一律10万円の給付に軌道修正したことは政権の迷走ぶりを印象づけた。

 「我々政治の側はとにかく今は対策にカネを使うべきだ、との意見で一致している。これまでこの政権では、経済対策を策定する際、政府側がそれなりの案を作ってくれた。しかし、今回は理念や対策の全体像、予算の使い方が曖昧なまま対策を逐次投入していることは否めない」。自民党の中堅議員はこう漏らす。

 7年余りの長期政権で築き上げてきた「首相官邸主導」体制。それが大きく揺さぶられ、政府・与党のパワーバランスが変容しつつある中、安倍政権は政策を決めるための司令塔と調整機能の弱体化という厄介な状況に直面している――。与党や政策立案を担う経済官庁幹部からはこんな声が相次ぐ。

 一因として少なからぬ与党議員らが挙げるのが、財務省の影響力低下だ。第2次安倍政権は経済産業省出身の秘書官や経産省と気脈を通じる有力議員らが軸となって政権を運営する一方、財政再建を掲げる財務省は意思決定の中心から遠ざけられてきた。