ロシアによるウクライナ侵攻から1年余りが経過した。食料やエネルギーなど輸入原材料価格の高騰で日本の2022年の貿易収支は過去最大の赤字を計上。原材料のコスト高は企業業績を圧迫し、生活必需品の価格上昇は低所得者層に深刻なダメージを与えている。課題が山積する中、日本は長期にわたる「低成長・低所得」から脱却できるのか。永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミストに処方箋を聞いた。
![永濱利廣[ながはま としひろ]](https://cdn-business.nikkei.com/atcl/gen/19/00138/031000079/p1.jpg?__scale=w:500,h:333&_sh=03c0f50930)
ロシアによるウクライナ侵攻から1年余りが経過しました。物価高騰で家計や企業への打撃が広がっていますが、日本経済への影響についてどう分析していますか。
永濱利廣・第一生命経済研究所首席エコノミスト(以下、永濱氏):マクロ的に見れば、ロシア、ウクライナというエネルギーや食料の供給元が戦争の当事国となり、供給が不足したことで、日本は輸入原材料価格の高騰に見舞われました。もともと輸入依存度が高いところに円安もあり、2022年の貿易収支は過去最大の19兆9713億円の赤字となりました。
また、ロシアによるウクライナ侵攻以降の日本経済は、中産階級の貧困化とインフレが重なった「スクリューフレーション」がより深刻化しています。消費者物価の動向を比較すると、生活必需品の価格が急上昇していることが分かります。
生活必需品は、低所得であるほど消費支出に占める比重が高く、高所得であるほど比重が低くなる傾向があります。総務省の「2022年家計調査」によると、消費支出に占める生活必需品の割合は、年収 1500万円以上の世帯が40%程度なのに対して、年収 200 万円未満の世帯では58%程度に達しています。
つまり、特に低所得者層を中心に購入価格上昇を通じて負担感が高まっており、富裕層との間の実質所得格差が一段と拡大していると言えます。
さらに、スクリューフレーションは地域格差も広げています。地方では自動車で移動することが多く、家計に占めるガソリン代の比率も都市部に比べて高いのが一般的です。また、冬場の気温が低い地域では、暖房のために多くの燃料を使う必要があります。原油やガスが値上がりすれば、光熱費も増えます。
このように、日本では今後も生活必需品価格の上昇などを通じて低所得者層の負担が増し、生活格差がさらに拡大する可能性があります。これは大きなポイントですね。
自動車産業など企業への影響も深刻ですね。
永濱氏:その通りです。世界的な半導体不足やウクライナ侵攻の影響で、各自動車メーカーが減産を余儀なくされています。輸出立国である日本経済の屋台骨である自動車産業の生産回復が遅れ、サプライチェーンの混乱も響いて関連産業を中心に悪影響が広がっています。
また、昨年は世界的なインフレの進行で欧米の中央銀行が利上げに動く一方、日銀が金融緩和政策を維持したことで円安が進みました。本来なら輸出拡大や訪日外国人(インバウンド)による消費拡大で稼げるはずでしたが、新型コロナウイルスの影響などで円安の恩恵を受けることができませんでした。歴史的な厳しい1年だったと思います。
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