浮かび上がる「密室体質」

 森氏の発言や後任人事を巡る今回の問題は、男女平等や反差別という五輪憲章が掲げる理念を損ない、世界経済フォーラムが2019年12月に発表した「ジェンダーギャップ(男女格差)指数」で、日本が153カ国中121位だったという現実を思い知らせる機会となった。 

 さらに古い永田町政治を想起させる「密室体質」も浮かび上がらせたとして、「日本社会にはびこる構造的な問題だ」など様々な指摘も相次ぐ。

 ちなみに筆者が自民党のベテランから若手など10人程度の議員に受け止めを尋ねたところ、男女を問わず森氏の言動に批判的な意見が大勢を占めた。そのうえで、複数の若手議員が口にしたのが、今回の件で、国の政治リーダーに求められる要件がさらに厳しくなったという認識だ。

 森氏は自民党内最大派閥である細田派の元会長で、今も党内ににらみを利かす実力者だ。国内外の政財界やスポーツ界、IOCとの太いパイプを背景に東京五輪・パラリンピックの開催決定から新型コロナウイルスの感染拡大に伴う開催計画の見直しをはじめ、様々な領域で組織委のトップとして手腕を発揮してきたことは間違いない。安倍氏も「特に五輪を巡っては森さんでしか成しえないことが多かった」と功績をたたえている。

 そうだとしても、森氏の今回の言動には幅広い層から「アウト!」の宣告が突き付けられた。それは、年配の男性が中心という社会観の下、幅広い影響力を背景に異論を封じて物事をまとめ上げる旧来型日本政治の手法とそうしたリーダー像が世界的な基準から著しく劣る現状に多くの人が憤り、疑問を抱いたからにほかならない。

 また、SNS(交流サイト)など個人の発信手段が多様化し、情報が瞬時に世界を駆け回る今、森氏の一連の対応はあまりに慎重さを欠き、周回遅れと評されても仕方ないだろう。自民のベテラン議員は「森さんの過去の業績すべてが吹っ飛びそうな状況には正直、気の毒になるが、これも時代の流れ。明日は我が身と気持ちを引き締めなければ」と語る。

徹底的に学び、考え抜くのがリーダー

 ここで参考として記しておきたいのが、筆者と旧知の企業経営者の言葉だ。世界を股にかけた経営の一翼を担い、グローバルスタンダードを肌で感じ、激しい競争に身を置く彼は森氏を巡る騒動も念頭に、こう指摘する。

 「毎日のように痛感するのは、リーダーこそ事業機会を見いだし、リスクを見極めるために自ら徹底的に学び、考え抜くことが求められるという現実だ。変化に対応し、先取りできなければリーダーは務まらないし、それができなくなればそのポストから降りるしかない」

 もちろん、企業経営者と政治家を同一では論じられないし、リーダーの資質を巡っては多種多様な意見もあるだろう。

 ただ、当選を重ねる中で人間関係を築き、資金力も拡大しつつ、会合とゴルフを通じて調整力に磨きをかける。そんな「永田町のルール」になお一定の意義は認めるにしても、政治リーダーには激変する時代の風を読み、自らバージョンアップを図り続けるための不断の努力がこれまで以上に重要になっているのではないか。

 「築城3年、落城1日」は安倍氏が好んで使う言葉だが、時代に適合しないと世論に判断された政治家の末路はますます険しいものになっていくに違いない。

 人事に関する透明性の確保に光が当たった今回の一件は、今後の政権での党幹部・閣僚人事にも影響を及ぼす可能性がある。後任の会長人事では、そもそも必要な能力の基準とは何かを整理し、その基準を満たす候補者とは誰なのかについて、これまでより論理的な説明が求められるはずだ。

 これまで政界では、組閣などの人事に際して論功行賞や派閥への配慮などを重視しがちだった。今回の問題を契機に、なぜその人物を自民党の枢要なポストや大臣に就けるのかがこれまで以上に問われるのではないだろうか。裏を返せば、政治家には候補としてふさわしいだけの専門性や政治的手腕を備えることが条件になるということだ。

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