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米司法省によるズームの元従業員提訴のリリース(出所:司法省のWebサイト)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、この1年間で最も存在感を増した企業といえば、ビデオ会議サービス「Zoom」を手掛ける米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズだろう。株価は年初から6倍以上に高騰し、時価総額は10兆円を超えた。「Zoom送ります」といったやり取りがビデオ会議の代名詞にもなった感がある。

 米政権が移行しようとしている年の瀬に、同社が現在置かれている環境を象徴する出来事が起こった。米司法省は2020年12月18日、ズームの元中国人幹部を起訴したと公表した。起訴内容は米国内のZoom利用者のサービスを正当な理由なく切断した嫌がらせ行為と、Zoomのユーザー情報を違法に共有した疑いだ。

 事の発端は2019年9月。中国国内でズームが突然利用できなくなった。中国政府がズームのサービスを停止する措置を講じたためで、これに対処するためにズームのエリック・ユアンCEO(最高経営責任者)が中国政府との調整に乗り出した。

 中国政府の要求は検閲だ。開催された会議の内容を分析して違法行為を特定したり、中国の法律に違反している会議をシャットダウンしたりするものだ。米ワシントン・ポストによると、中国政府が違法と考えるような会議を1分以内に終了させることを求められたという。

 ズームは中国の法律を順守する目的で、現地のパートナー企業とこれらの機能を開発。納得したとみられる中国政府は19年11月、ズームのサービス再開を許可した。

米国内の会議まで強制切断

 この過程で問題の元幹部が登場する。ズームはセキュリティー関連を担当していた元幹部を中国政府の連絡先に指定。ターゲットとしたZoomアカウントの削除や会議の終了、ユーザーデータに関する中国政府の要求への対応を担当することとなった。天安門事件を批判するグループの会合など、中国政府に不都合な内容の会議を阻止する目的だ。特定の政治や宗教、性的な内容も規制の対象にしていたという。

 米司法省が問題としているのは米国内での措置だ。中国政府からズームに対し、6月4日に天安門事件に関する4つの大規模な会合が開かれるので、会合の中止とホストのアカウントの削除が求められた。

 ズームは中国からの参加者がいる会合を切断し、ホストのアカウントを削除するなどの対応をした。中国以外の参加者のセッションはそのままにしたという。結果として、4つの会合のうち3つを終了させ、主催するホストのアカウントを閉鎖または中断した。

 この対応において米国など中国以外の参加者もいる会議を中断させ、米国の利用者のホストアカウントを削除または停止したという(アカウントはその後復旧)。また、司法省は元幹部が米国のユーザーデータを中国側に渡したとしている。これに対して、ズームは「10人以下のユーザーを除いて、中国外の利用者のデータを提供したとは考えていない」と説明している。

 ズームは元幹部を解雇している。米国内の利用者の会議を切断した理由をテロについて話しているとする虚偽の内容をズーム側に伝えたからだという。

 元幹部は中国国内にいるため身柄は拘束されていないし、現時点で有罪ではない。ただ司法省によると、元幹部が特定した中国側の利用者や家族らに、中国政府からの圧力がかけられたという。1人は一時拘束された。