米アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が亡くなってから、2021年10月5日で10年となる。この節目に、1980年代の若きジョブズ氏をとらえた貴重な写真のデータが、日本人の手で米スタンフォード大学に寄贈された。米シリコンバレーの勃興期からテクノロジー業界の大物を撮影してきた写真家の小平尚典氏は、データを後世に残す道を選んだ。

「たとえ私が死んだとしても、スティーブの貴重な写真のデータは永続的に管理される。米国や世界のテクノロジーの中心とも言えるスタンフォードで将来にわたって保持してもらえる。学術や研究など非商用の利用であれば、基本的に無償で利用できる契約だ」
スティーブ・ジョブズ氏ら、米西海岸のIT業界の大物を1980年代から撮影してきた小平氏は、写真のデータをスタンフォード大学に無償で寄付した理由をこう述べる。原本は大部分がフィルムであり、デジタル化のスキャンや色合いの修正などの作業が必要だ。21年5月から、スタンフォード大学にデータを送り始め、同年9月1日に世界に公開された。
ジョブズの特別な側面が浮かぶ
小平氏が撮ったジョブズ氏の写真は、地元シリコンバレーでも評価が高い。未来学者であり長年ジョブズ氏のことを知るスタンフォード大非常勤教授のポール・サフォー氏は「スティーブのリラックスした写真を撮るのは至難の業だ。その点で小平氏の写真は特別なものである。ずっとシリコンバレーにいた我々でさえ気づかなかった、スティーブの素顔を浮かび上がらせてくれている。そこで我々から小平氏に今回のスキームについてアプローチした」と評価する。


例えば、88年10月には、アップルを追われ新しいアーキテクチャーのコンピューターを開発するネクスト・コンピューターを設立した若き日のジョブズ氏を撮影することとなった。「NeXTcube」と呼ぶ、ワークステーションの発表記者会見だった。ジョブズ氏は33歳だ。
小平氏は「ネクストはインターネットにつながるパーソナルコンピューターの原型とも言え、まさに世界を変えたプロダクトであり、今のMac OSの基盤にもなっている。スティーブにはやる気がみなぎっており、それがビンビンと伝わってきた」と振り返る。晩年は見ることがなかったスーツ姿だ。「ビル(・ゲイツ マイクロソフト共同創業者)はTシャツだから、自分はアルマーニで決めたとジョークを飛ばしていたが、やはりビル・ゲイツが最大のライバルであり、彼にとって極めて重要な発表であることを感じた」(小平氏)
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