米シリコンバレーの日系ベンチャーキャピタル、ソーゾーベンチャーズ(Sozo Ventures)の中村幸一郎氏が、米フォーブズ誌が2021年4月に選んだベンチャーキャピタリストのトップ100のランキングに入った。日本人としては初だという。中村氏は有力な投資先を探すのに偶然はなく、野球のスカウトのような長期の関係構築が欠かせないと強調する。

Sozo Venturesファウンダー/マネージング ディレクター。早稲⽥⼤学法学部在学中にヤフージャパンの創業・⽴ち上げに孫泰蔵⽒とともに関わる。三菱商事では、通信キャリアや投資の事業に従事し、インキュベーションファンドの事業などを担当した。早⼤法学⼠、シカゴ⼤学MBAをそれぞれ修了。⽶国のベンチャーキャピタリスト育成機関であるカウフマンフェローズ(Kauffman Fellows Program)を2012年に修了。同年にSozo Venturesを創業した。ベンチャーキャピタリストのグローバルランキングであるMidas List 100の2021年版に日本人として初めてランクインした。
米フォーブス誌の「The Midas List」の72位にランキングされました。これはベンチャーキャピタリストにとってどのような意味を持つのでしょうか。
中村幸一郎氏(以下、中村氏):ベンチャーキャピタリストとして非常に光栄だと思っています。Midas Listにランキングされているのはセコイアキャピタルなど米国の有力ベンチャーキャピタル(VC)に所属する非常に有名なベンチャーキャピタリストばかりです。そこに日本人として初めてランキングされました。
Midas Listにランキングされるには投資した企業の価値が数千億円のレベルになる必要があります。まずそこに大きなハードルがあります。規模が必要なため、歴史があって投資額が大きなVCが有利です。多くの人が「Sozo Venturesの規模でランキングに入ったのはすごい」と言ってくれます。
ランキングされるにはまずMidas Listの側に認識してもらわないといけません。ビッグデータ分析の米パランティア・テクノロジーズへの投資案件が契機だったのではと思っています。こうした注目案件にSozoが入っているということで対象になったのだと思います。Midas Listの特筆すべき取引の項目に(米暗号資産交換所の)コインベース・グローバルが挙げられていますが、IPO(新規株式公開)の前なので部分的な評価です。
コネクションと自身のブランディングが大事
中村さんはベンチャー投資についてカウフマンフェローズというところで学んだそうですが、どのような機関なのですか。
中村氏:毎年30~60人程度、今後VCのリーダーになりそうな人を選ぶベンチャーキャピタリスト専門の育成プログラムです。カウフマンという人が立ち上げたためそのような名前になっています。今は26期まで来ています。
対象は有力VCの若手パートナーで、次世代の中核になるようなベンチャーキャピタリストです。有力VCが半分、新しいVCを立ち上げた人が半分という印象です。そこでは最新のプラクティスを学ぶだけでなく、人脈を作ることができるのがポイントです。3カ月に1回リアルで集まって、VC業界の重鎮などから企業評価の方法を教えてもらったり、大学の先生から最新の事例を聞いたりします。
私がプログラムに入ったのは2007年で09年に卒業しました。私は日本人のIT分野では初めてでした。私が入る前までは北米のVCの教育をしていたのですが、それをグローバルに拡大した格好です。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)にも対象を広げました。実はその時、カウフマンフェローズの代表を務めていたのが、Sozoを共同で創業したフィル(ウィックハム氏)です。彼はVCのグローバル化を積極的に進めていました。
このようにカウフマンフェローズでは、10年間VC業界にいたら身につくような知識とネットワークを人工的に与え、次世代のリーダーを育てています。例えば、同級生に音楽配信のスポティファイを発掘して投資をした、スウェーデンのVCのパートナーがいました。それがきっかけでスウェーデンがVC投資でホットなエリアになったり、欧州でスポティファイに続くメガベンチャーが出てきたりしています。これが私にとってものすごい刺激になりました。
日本のベンチャーキャピタリストはそうしたインナーサークルに入るのが難しいのでしょうか。
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