⽶航空宇宙局(NASA)の⽕星探査機「パーシビアランス」が⽕星への着陸に成功した。約2年間かけて⽣命の痕跡の探査に乗り出す壮⼤なプロジェクトとなる。こうした中、我々の宇宙は無数にあるうちの1つであるとする「マルチバース理論」を唱えるのが、米カリフォルニア大学バークレー校(UCバークレー)の研究者で、米国物理学会のフェローも務める野村泰紀教授である。「宇宙が1つしかないという考えのほうが説明がつかなくなってきている」と言う野村教授にその理由を聞いた。

<span class="fontBold">野村泰紀(のむら・やすのり)氏</span><br> 米カリフォルニア大学バークレー校教授。1974年、神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程修了後、渡米。2012年より現職。バークレー理論物理学センター長、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者などを務める。17年に米国物理学会フェローとなる。専門は素粒子物理学理論、宇宙論、量子重力理論、量子情報理論。著書に『マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか』(星海社)
野村泰紀(のむら・やすのり)氏
米カリフォルニア大学バークレー校教授。1974年、神奈川県生まれ。東京大学大学院博士課程修了後、渡米。2012年より現職。バークレー理論物理学センター長、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究者などを務める。17年に米国物理学会フェローとなる。専門は素粒子物理学理論、宇宙論、量子重力理論、量子情報理論。著書に『マルチバース宇宙論入門 私たちはなぜ〈この宇宙〉にいるのか』(星海社)

宇宙は複数あるというマルチバース理論を提唱しています。想像できないくらい広い宇宙の片隅に住んでいる自分からすると、イメージできません。

野村泰紀教授(以下、野村氏):私たちが今生きているこの宇宙は、あまたある宇宙の1つにすぎません。最新の物理学で考えていくと、自然な帰結として導き出されるようになっています。

 今から10年以上前に国際学会でマルチバース理論について発表したところ、議長から「哲学的な発表をありがとう」と言われたこともあります。彼には科学的な理論に見えなかったのかもしれません。

 しかし現在はこうした反応はありません。理論的なエビデンスも出てきているからです。マルチバースはゆるやかに支持されていると思っています。大きく反対はしていない人がほとんど。もちろん極端にアンチな人もいますが。

どのようなきっかけで、マルチバースであると考えるようになったのですか?

野村氏:20年以上前の1998年までさかのぼります。覚えている方もいるかもしれませんが、宇宙が膨張し、さらにそれが加速しているということが発見されました。発見者の1人はUCバークレーの研究者で、ノーベル賞も取りました。これが衝撃的だったのです。宇宙には重力があるので物質は引き合って減速するはず。それがそうならずに逆になぜか膨張している。これを理論で突き詰めていくと、やはりマルチバースでないと説明できません。

 ここで注目すべきなのが、宇宙に存在する真空と物質の2つのエネルギーの密度です。

 エネルギーは通常、物質が存在することにより生じるので、原子などの粒子が存在しない真空はエネルギーがゼロであると考えられていました。ところが宇宙では「空間自体」がごく小さなエネルギーを持っていることが確認されたのです。この真空のエネルギーの量は、ゼロからわずかなプラスであり、宇宙がいくら膨張してもその密度は変わりません。一方で、物質のエネルギー密度は空間が膨張することで分母が大きくなるので減少していきます。

 最近の観測では、宇宙の全エネルギー密度の7割が真空で、残りの3割が物質と分かってきています。ビッグバンの後の初期は物質のエネルギー密度の方が何十桁も大きかったのに、現在はほぼ同じになっているのです。

 ビッグバンのときから一定である真空のエネルギー密度と、ビッグバン後に膨張によって急速に下がり続けている物質のエネルギー密度が、現在はほぼ同じになっているのです。宇宙誕生から100億年以上がたち、人類が宇宙を観測している、ちょうど今そのときにです。普通に考えればこれらの大きさは100桁ずれていてもおかしくありません。これが本当に不思議です。

 我々は今、そういう特別な時代に存在しているのです。仮に真空のエネルギー密度が大き過ぎると、星や生命体は存在することができません。

続きを読む 2/3 いろんな条件の宇宙が存在する

この記事はシリーズ「市嶋洋平のシリコンバレーインサイト」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。