「空飛ぶクルマ」と呼ばれる電動垂直離着陸機(eVTOL、イーブイトール)を手がける米国のスタートアップ(新興)企業「ジョビー・アビエーション」が日本市場開拓に向けた活動を活発化している。10月18日、日本におけるeVTOLの商業運航に必要な「型式証明」の申請を国土交通省航空局に提出。商用サービス開始に向けた一歩を踏み出した。米国ではeVTOLを利用した移動サービス開始に向けて航空事業者の認可を既に獲得済みだ。機体に関しては、トヨタ自動車とともに製造工程の「カイゼン」に取り組むなど、eVTOLを用いた新しい移動サービスを2024年に開始すべく、まい進している。

米カリフォルニア州マリーナの施設上空で試験飛行するジョビー・アビエーションの電動垂直離着陸(eVTOL)機
米カリフォルニア州マリーナの施設上空で試験飛行するジョビー・アビエーションの電動垂直離着陸(eVTOL)機

 航空ベンチャー、ジョビーの実績は、eVTOLメーカーの中で頭一つ抜きんでている。トヨタ自動車が出資・協力していることで広く知られており、ジョビーは機体開発にとどまらず、モーターといった中核部品や、機体を利用したモビリティーサービスを米国で手がけようとするなど、垂直統合型の事業モデルを志向している。

 創業者でCEO(最高経営責任者)のジョーベン・ビバート(JoeBen Bevirt)氏は、根っからの航空機好き。eVTOLの実現という夢のため、いったん航空業界とは関係ない分野でいくつかの企業を創業し、それらをバイアウトして得た資金を基に、2009年にジョビーを創業した。

 もともとジョビーはeVTOL業界では知られた存在だった。トヨタによる3億9400万米ドル(当時のレートで約430億円)の出資が20年1月に発表されると、産業界での注目度が飛躍的に高まった。ところが、それから間もなくして新型コロナウイルスの感染が拡大。航空業界全体が大きな打撃を受けたものの、ジョビーは逆境にめげず、意欲的に開発を進めた。

 コロナ禍での開発をスムーズに進めるために、自ら新型コロナの感染検査を行う別会社を創業したほどである。コロナ感染の有無を迅速に確認できる検査体制を整え、従業員に対しては出社ごとの検査を義務付けた。これによって感染拡大を予防しつつ、機体開発を進めた。外部の検査も請け負ったことで検査企業の業績も伸び、資金面でもプラスに働くなど、副次的な効果も生まれた。

米カリフォルニア州サン・カルロス市にあるジョビー・アビエーションの開発拠点
米カリフォルニア州サン・カルロス市にあるジョビー・アビエーションの開発拠点

 その結果、コロナ下においても着実に実績を積んでいった。17年から開始したフルスケールの試験機による飛行試験は、21年で延べ1000回を超え、移動距離は延べ5300マイル(約8500km)を上回る。米航空宇宙局(NASA)や米空軍のプロジェクトにも参画するなど、公的機関からのお墨付きも得ている。

 もっとも、ジョビーに限らずeVTOLの実用化と同機を利用した移動サービスの商用化には、大きく5つのハードルがある。(1)機体開発、(2)量産体制の構築、(3)規制当局からの認証獲得、(4)離着陸場や充電器といったインフラの準備、(5)多額の資金である。いずれの課題においても、ジョビーは大きな成果を上げている。

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