新型コロナウイルスの影響で米国の航空業界は大きな打撃を受けたが、電動の垂直離着陸(eVTOL)機の開発は再び活発になってきた。2021年に入り、米国の大手自動車メーカーが参戦を表明。新興企業も開発の進捗ぶりをアピールしている。ドローン分野で中国に台頭を許したことから、安全保障の観点から米空軍もeVTOL機の実用化を支援する。早ければ米連邦航空局(FAA)の型式証明を獲得する最初の機体が21年中に登場し、商用の移動サービスが23年に始まる見込みだ。

 eVTOL機は従来の航空機に比べて、あたかも自動車のように手軽に乗り降りできることから、「空飛ぶクルマ(Flying Car)」と呼ばれる。主に「UAM(Urban Air Mobility:都市型航空交通)」、すなわち都市部での「エアタクシー」として利用が想定されている。自動車での移動に比べて数分の1の時間で済むことから、都市部の渋滞問題を解決する手段として期待されてきた。加えて電動化によって、温暖化ガス削減のほか、エネルギー効率の向上や構造の簡素化によるメンテナンス負荷の軽減でコスト削減を狙える。パイロット不要の自律飛行と組み合わせれば、ヘリコプターに比べて運賃を大幅に削減できる見込みだ。

 こうした利点から、UAM市場は急拡大する可能性を秘めており、eVTOL機を開発する新興企業に多額の資金が投じられてきた。これに伴い新興企業の数も増加し、eVTOL機業界は一種の「バブル」の様相を呈していた。欧州エアバスや米ボーイングといった大手航空機メーカーも研究開発に取り組んできた。

 ところが新型コロナ禍で移動需要が一気に消滅。eVTOL機の新興企業へのこれまでの主要な出資者は、航空業界の大手企業や同企業のCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)が多かったこともあり、大きな打撃を受けた。象徴は、業界の旗振り役だった米ウーバーテクノロジーズが手塩にかけて育ててきた空飛ぶタクシーの研究開発部門「エレベート」を売却したことだ。配車サービスの業績が急落し、手放すことになった。ウーバーは「Uber Air(ウーバーエア)」の商用サービスを23年に開始することを目標に掲げており、本来20年は実証試験を始める節目の年になるはずだった。

群雄割拠から集約へ

 その結果、eVTOL機の開発は群雄割拠から集約へとステージが変わった。中心となったのは、コロナ禍前に多額の資金調達に成功した新興企業で、実用化に向けて粛々と開発を進めた。大手自動車メーカーも新たな移動サービスの1つとして、また、自動車で培った電動化技術や製造技術を生かせる新市場として、継続して研究開発を続けた。いずれコロナ禍が収まれば、移動需要はある程度回復する。長期的に見れば、都市部の人口は増え続け、渋滞も再び顕在化する。そんな思惑から、淘汰後に残った企業はeVTOL機や同機を利用した移動サービスの開発の手綱を緩めなかった。

GMが見せたeVTOL機のコンセプト(出所:CES 2021の基調講演映像)

 こうした活動の成果が、21年に入って次々と出てきた。例えば、1月に開催された世界最大級のデジタル見本市「CES」の基調講演において、eVTOL機と離着陸場のコンセプトを発表したのが米ゼネラル・モーターズ(GM)だ。20年のCESでは、韓国・現代自動車や大手ヘリコプターメーカーの米ベル・テキストロン(Bell Textron)がeVTOL機を発表し、注目された。21年はオンライン開催のためか、両社とも今回のCESへの出展を見送った。航空業界の経営不振も相まってeVTOL機は話題にならないと予想されていたが、GMがコンセプト機を発表し米メディアの多くが「サプライズ」と報じた。

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