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 昨年春、河井克行衆院議員は、地元選挙区である広島の市議や県議らの事務所や自宅を訪ね、現金を配っていた疑いが持たれた。

 「案里をよろしくお願いします」「先生こらえてください」

 そんな押し問答の末に、半ば強引に現金入りの封筒を置いていったとされる。当時、参院選への出馬を控えていた妻、案里氏への票の取りまとめを期待していたとみられ、案里氏自身も一部の地元議員に直接現金を渡していた疑惑が浮上している。

 地元議員たちが黙っていれば、決して現金授受が露見することはない。夫妻はそうたかをくくっていたのだろうか。だが夫妻が持ち歩いていたスマートフォンが買収したとされる現場を“記録”していた。

 それから1年余り。今年6月、2人そろって公職選挙法違反の疑いで逮捕された。

河井克行氏(左)と妻の案里氏(右)(写真:共同通信)

パソコンから「買収リスト」を復元

 河井夫妻を追い詰めたのは捜査当局による「デジタルフォレンジック(電子鑑識)」だ。通常、「鑑識」と言えば犯行現場に残る指紋や血痕、足跡など、犯人の検挙につながる証拠を収集・鑑定する作業を指す。これに対して電子鑑識は、犯行現場ではなく、関係者のIT機器からデータを抽出して、真相に迫る。

 IT機器が普及してからは、パソコンやスマホ、車載カメラなどに証拠となるデータが眠っている事件が多くなり、電子鑑識の重要性が増している。先ごろさいたま市で発生した殺人事件でも、警察によるスマホの解析が解決に大きく貢献するなど、電子鑑識が容疑者検挙の決定打になる事件が増加している。

 今回の買収事件もしかり。もともと検察は案里氏の秘書らが、選挙運動員に規定を超える違法な報酬を支払っていた疑いで捜査していた。その一環で今年1月に押収した克行氏のパソコンから消されていたファイルを復元したところ、地元議員の氏名や金額が載った「買収リスト」が偶然出てきた。これを機に検察は河井夫妻による買収を疑うようになった。

 克行氏はファイルを削除しても、しばらくはデータがパソコンに残ることを知らなかったのだろう。警察や検察の電子鑑識に協力しているリーガルテック(東京・港)の小瀬聡幸CTO(最高技術責任者)は次のように解説する。