全2929文字

 インターネットで誹謗(ひぼう)中傷を受けた女子プロレスラーの木村花さんが5月に急死した問題を受け、総務省で進んでいた制度改正の議論がにわかに注目を浴びている。7月には有識者の研究会で方向性を取りまとめる予定だ。ただし誹謗中傷対策の強化はもろ刃の剣でもある。

リングで観客を魅了した木村花さん(写真:Etsuo Hara / Getty Images)

 自社の悪事をネット告発した人物を制裁しようと経営陣が特定したり、消費者が投稿した正当な辛口批評を強制的に削除させたりする企業が実際に存在する。法制度の悪用を防ぎつつ、中傷に苦しむ被害者を救済するという絶妙のバランス感覚が求められている。

「消えろ」「不愉快」の集中砲火

 木村さんはフジテレビの人気リアリティー番組「テラスハウス」に出演しており、一部の視聴者からツイッターなどのSNS(交流サイト)で番組内での言動を糾弾されていた。木村さんの死因は、自身に浴びせられた心ない批判を苦にした自殺だとみられている。

 死亡が報じられた直後、投稿者たちは木村さんのツイッターに書き込んだ「消えろ」「不愉快」などの批判を自主的に削除し、一斉に逃げた。さらに今回の騒動で心配になったのか、過去に他人に対する批判を書き込んだ経験がある人たちから、「身元が特定される可能性があるのか」との問い合わせが中傷問題を取り扱う弁護士事務所で増えているという。

 「投稿者の身元は特定可能か」との問いに対する答えは「イエス」だ。被害者側は名誉毀損など明らかな権利侵害があった場合に、プロバイダー責任制限法にのっとってツイッターなどのSNS運営会社や携帯電話会社、プロバイダーにIPアドレスや氏名など投稿者に関する情報の開示を請求できる。

 今回、総務省の研究会では開示する情報に電話番号を新たに加えるなどして、被害者がよりスピーディーに投稿者を特定し、損害賠償を請求できるよう議論している。

 この情報開示制度は木村さんのような誹謗中傷の被害者の救済を想定して2002年に設けられた。その一方で、当初から威圧を目的とした「スラップ訴訟」で悪用される懸念が指摘されてきた。