新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に合わせて、中国国営メディアがネットを通じ国際社会に対する世論工作を仕掛けている。SNS(交流サイト)に載せる広告と投稿の件数は普段の3倍に達した。「新型コロナを発生させた国」という負のイメージを、「感染の封じ込めに成功した国」に逆転させるのが目的だ。西側諸国より統治システムが優越していると訴え、「アフター・コロナ」の覇権を狙う。背後で操っているのは中国共産党だ。トランプ米大統領による中国批判を抑え込むべく、国際世論への働きかけを強める。

習氏の功績を宣伝

 世論工作の一端が垣間見えるのが、ネット広告の“爆買”だ。「中国国営メディアがフェイスブックに出稿する政治広告が1月以降、急増している」と指摘するのは、中国などによるSNSの利用状況を調査している米スタンフォード大学「インターネット観測所」の研究員、バネッサ・モルター氏である。

中国国営メディアCGTNがフェイスブックに載せた政治広告。習近平国家主席の新型コロナ対策を動画で宣伝している
中国国営メディアCGTNがフェイスブックに載せた政治広告。習近平国家主席の新型コロナ対策を動画で宣伝している

 中国中央テレビ(CCTV)や同系列の外国語放送局CGTNがフェイスブックに載せた英語、スペイン語、フランス語、中国語(国外の中国語圏向け)の政治広告を集計したところ、2020年1月1日~4月24日は115件に上ったという。19年1〜12月に掲載した128件にほぼ匹敵する出稿量を、20年に入ってから約4カ月で達成した。普段の3倍のペースで政治広告を載せている計算になる。

 「19年は中国政府による香港や新疆ウイグル自治区の統治政策を正当化する内容など、様々な政治広告を掲載していた。それが20年からは新型コロナ関連一色だ」(モルター氏)という。習氏による感染防止活動などを宣伝している。

 急増しているのは政治広告だけではない。中国国営メディア各社は日ごろから公式アカウントを通じて様々な言語でフェイスブックやツイッター、インスタグラムなどに投稿している。情報セキュリティー会社、米レコーデッド・フューチャーの研究員、プリシラ・モリウチ氏の集計によると、CGTNやCCTV、人民日報、中国日報など中国国営メディアが英語でSNSに書き込んだ件数は、2月半ばから3月初めにかけて1日当たり3300件以上と、通常の約3倍に跳ね上がった。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1643文字 / 全文2564文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「吉野次郎のサイバー事件簿」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。