例えば1月26日から、ツイッターで「新型コロナの致死率は15%」とするデマが拡散した。デマがツイッターの集団内で一巡し、ようやく沈静化したのは30日である。

 それから2週間後の2月14日に突如として再燃する。今度は掲示板サイト「5ちゃんねる」で「致死率は15%だ」とする書き込みが増え始め、翌15日には関連するスレッドが372も立ち上がった。

 江島氏は、「新しい情報に飛びつく感度の高い集団から、低い集団へと順番にデマが伝わっている。両集団に属する仲介者がデマを伝えているようだ。集団から集団へ何回デマが伝搬するのか、現在調査を進めている」と言う。

危惧される中国人への偏見

 集団を単位としてデマが広がる一因として考えられるのが、「エコーチェンバー(共鳴室)」と呼ばれる現象だ。集団内の価値観に合致した主義主張は周囲から賛同・称賛を受けやすく、確信が深まっていく現象を指す。たとえデマであったとしても、日ごろの主義主張を補強してくれるような情報であれば、集団内では「やっぱりそうだったか」という反応を呼び起こす。

 特にメッセージが非公開である場合は、第三者から「デマだ」と指摘される可能性は低い。エルテスではツイッターで拡散したデマが、チェーンメールのように対話アプリ「LINE」を通じて別の集団に広がる現象も観測した。

 江島氏は「LINEだとメッセージが非公開なので、外部の目には触れない。いわば閉鎖空間でデマが拡散しているようなもの。間違いに気づく機会がほとんどない分、危険だ」と指摘する。

 SNSには「中国人夫婦が徳島で新型コロナをばらまいている」「中国人観光客が関西空港から病院に搬送され、検査前に逃げた」などと、中国人への偏見につながるようなデマが散見される。

 約650年前の欧州で起きた悲劇を忘れてはならない。

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