外資系企業も例外ではない

 3つ目が、一般の中国企業に勤務するIT技術者だ。ハッキングの腕に覚えのあるIT技術者は、当局から求められなくとも、その意向を忖度(そんたく)して自主的に外国企業や外国政府からデータを盗み出している。見返りとして当局から事業上の便宜を図ってもらうことに期待している。

 そして4つ目が中国に拠点を置く外資系企業の従業員だ。中国当局の意向を受けて、社内の情報を盗み出している。20年12月には米司法省がビデオ会議サービス「Zoom」を提供する米ズーム・ビデオ・コミュニケーションズの中国拠点に勤務していたIT技術者を起訴したと発表。中国当局の要請を受けて、中国にとって不都合なビデオ会議が開かれないか監視したり、顧客情報を渡したりした疑いが持たれている。

米連邦捜査局(FBI)が行方を追う米ズーム中国拠点に勤務していたIT技術者の指名手配書
米連邦捜査局(FBI)が行方を追う米ズーム中国拠点に勤務していたIT技術者の指名手配書

 もちろん中国で外資系企業に勤めていても、不正に手を染めない従業員が大半だろう。それでも人民戦争理論がサイバー分野にも波及していると疑われている以上、中国に拠点や業務委託先がある日本企業は、現地でのデータの取り扱いに慎重を期す必要がある。LINEを巡る騒動は人ごとではない。

サイバーアンダーグラウンド』好評発売中!

 ネット社会の闇を徹底取材! 日経BPから『サイバーアンダーグラウンド/ネットの闇に巣喰う人々』を刊行しました!

 本書は3年にわたり追跡した人々の物語だ。ネットの闇に潜み、隙あらば罪なき者を脅し、たぶらかし、カネ、命、平穏を奪わんとする捕食者たちの記録である。

 後ろ暗いテーマであるだけに、当然、取材は難航した。それでも張本人を突き止めるまで国内外を訪ね歩き、取材交渉を重ねて面会にこぎ着けた。

 青年ハッカーは10代で悪事の限りを尽くし、英国人スパイは要人の殺害をはじめとする数々のサイバー作戦を成功させていた。老人から大金を巻き上げ続けた詐欺師、アマゾンにやらせの口コミをまん延させている中国の黒幕、北朝鮮で“サイバー戦士”を育てた脱北者、プーチンの懐刀……。取材活動が軌道に乗ると一癖も二癖もある者たちが暗闇から姿を現した。

 本書では彼らの生態に迫る。ソフトバンクグループを率いる孫正義氏の立身出世物語、イノベーションの神様と評された米アップルの創業者スティーブ・ジョブズ氏が駆け抜けた波瀾万丈の人生など、IT業界の華々しいサクセスストーリーがネットの正史だとすれば、これは秘史を紡ぎ出す作業だ。悪は善、嘘はまこと。世間の倫理観が通用しない、あべこべの地下世界に棲む、無名の者たちの懺悔である。

 サイバー犯罪による経済損失はついに全世界で年間66兆円近くに達した。いつまでも無垢なままでいるわけにはいかない。

 ネット社会の深淵へ、旅は始まる。

この記事はシリーズ「吉野次郎のサイバー事件簿」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。