東京や大阪など19都道府県を対象とした緊急事態宣言が、9月30日まで延長された。その影響を最も受け変化を迫られている外食業界だが、ほかの産業で活発になっているM&A(合併・買収)がなぜかおとなしいという。(関連記事:コロナ禍でもM&Aが過去最多に 巣ごもりが経営者を変えた?)。M&A仲介大手の日本M&Aセンターの江藤恭輔食品業界支援室長に、その背景や外食産業の再編のトレンドを聞いた。

コロナ禍で産業全体のM&Aが活発化する中で、外食業界はどうでしょうか。

日本M&Aセンターの江藤恭輔・食品業界支援室長(以下、江藤氏):正直申し上げて、2021年はかなり厳しい状況です。大手企業などが公表した案件ベースでは、上半期で15件のみ。同じくコロナの影響を受けていた20年が22件だったので、明らかに減っています。一方、ニュースから、外食業界で再編が起きているという印象を受けている人もいるでしょう。それは大手の資本業務提携が目立つからだと思います。

 2月に居酒屋「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングスが、生鮮宅配のオイシックス・ラ・大地と資本業務提携を結びました。「焼肉きんぐ」などを運営する物語コーポレーションは、投資ファンド大手のアドバンテッジパートナーズ系のファンドなどを引受先に、資本増強すると発表しました。ワタミも日本政策投資銀行から出資を仰いでいます。こうした資本増強の案件は上半期で18件、前年同期が5件だったので大きく伸びています。

なぜ大手の資本増強が増えているのでしょうか。

日本M&Aセンターの江藤氏
日本M&Aセンターの江藤氏

江藤氏:コロナ前に年商1000億円を超えていた外食大手では、店舗のほとんどが直営店でフランチャイズ店舗が少ない。コロナで売り上げが急減すると、この固定費が重くのしかかってしまいました。20年より21年は営業時間の短縮やアルコール提供に関する「縛り」が厳しくなり、外食業界ではない異業種から支援を仰ぐケースが増えています。逆にコロナ禍でも好業績を計上している外食企業は、フランチャイズ比率が非常に高い傾向にあります。

コロナ前の外食業界のM&Aは、どのような傾向だったでしょうか。

江藤氏:外食業界は、売上高1000億円を超える大手企業の占有率が10%超しかなく、再編が進んでいない業界として知られています。そうした背景から、M&Aの件数は上り基調でした。

 年間公表ベースで、19年が49件。20年が47件ですので、横ばいでした。ただ、コロナ禍で外食の経営状況が厳しくなると、買収を検討している間に買われる側の企業の財務状況が悪化し、買い手が取りやめてしまう動きがありました。また、19年に比べて、買収額が小さくなり、ほぼ1桁億円レベルでした。ペッパーフードサービスが、ステーキチェーンの「ペッパーランチ」事業を投資ファンドに売却した件は例外です。

 そして21年はストップした、という感じです。産業界全体ではM&Aは活発化しているので、弊社としてもそちらに力を入れている状況です。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2299文字 / 全文3554文字

【春割/2カ月無料】お申し込みで

人気コラム、特集記事…すべて読み放題

ウェビナー・音声コンテンツを視聴可能

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「グルメサイトという幻」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。