新機能の波に埋没する「売り」

 ヘルシオはレストランの業務用と同じく過熱水蒸気で加熱し、通常の熱風によるオーブンの約8倍の熱量で調理できる。門崎の千葉祐士代表は、「100万円以上する業務用に近い性能が、家庭で再現できるのはすごい」と驚く。

 プロから高い評価を得たローストビーフの料理プログラムだが、「3年前に取り入れたが、その後埋もれてしまっていた」(シャープの国内スモールアプライアンス事業部長の奥田哲也氏)。家電製品はリニューアルのたびに「売り」となる新機能を追加していくが、既に機能的にはピークに達しており、進化は横ばいになってしまっている。そのため、「ただ家電量販店に並べていても、客層が広がらない」(奥田氏)

 また、発売当初は料理好きが家でおいしい料理を楽しめるというコンセプトだったが、共働きの増加と共に「手軽に簡単」が強調されるようになった。ヘルシオは機種によっては10万円を超える安くない買い物だ。専用の調理プログラムをダウンロードできる機能を生かしたくなる一流の食材が今まで欠けていた。

 そんなとき、外食ベンチャーのテーブルズ(東京・港)から協業の話がシャープに入り、今回の企画に至った。「TASTY JOURNEY with HEALSIO」と銘打ち、第2弾、第3弾の「極上食材」を販売していくという。

 外食業界にとっては、ヘルシオは「外食のEC化」を進めるのに重要なピースになり得る。コロナ禍で外食頻度は大きく下がり、逆に「外食に勝るとも劣らない味を家庭で実現して楽しむ」という需要が生まれる素地ができた。しかし一気に広がったデリバリーは、配達中の荷崩れや、時間経過による味の低下、何より割高な配達料というコストの上乗せが、顧客体験の足かせになっている。アパレルなどほかの小売業と同様に外食がECに向かうには、家庭で味を高める「ラストワンマイル」を埋めるツールが不足していた。

 外食らしい「ハレの日」のクオリティーを家庭に持ち込むことができれば、スーパーやコンビニといった中食業界に対抗する武器を持つことになる。今回の取り組みでは、乳牛を育てる牧場の様子など背景を公式ウェブページで伝えている。「レストランと同じ体験では意味が無い。それを超える体験を食卓に届ける」(テーブルズ)ことを目指す。

 ヘルシオが狙うのは「調理家電の米テスラ」(シャープの沖津雅浩・専務執行役員)。テスラは自動運転などの機能を無線通信経由でアップデートすることで、自動車産業に新たな体験価値を持ち込んだ。ヘルシオは買い替えなしに機能を進化させられる特長を押し出し、外食業界はデリバリーの先にあるECの本格化を図る。二人三脚で家庭の食卓の味を進化させられるか。

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