既存の書評が抱える課題に著名書評家が挑戦

 そうした状況を覆そうと鹿島氏、由井氏が立ち上げたのが、過去の書評を再録する「書評アーカイブ」の構想だった。読者は気になる本や著者の名前で検索し、新聞や雑誌を横断して書評を探すことができる。Amazonやhontoといったネット通販サイトや、図書館の蔵書検索サイトへのリンクも記事に埋め込んであるため、記事中で紹介した本を買ったり借りたりするのも容易だ。読者が記事を経由して書籍を買った場合、その売り上げの数%は書評家に還元される。

 書評家にとってみれば、これまで埋もれていくばかりだった書評に再び光が当たり、追加の収入ももたらしうるサービスだ。鹿島氏は書評家やその遺族にこの構想を持ちかけて賛同者を集め、由井氏はサイトやサービスの設計を手掛けた。最初の構想から半年ほどでALL REVIEWSの公開にこぎ着けた。

書評サイト「ALL REVIEWS」を運営する由井緑郎氏(左)と鹿島茂氏(右)
書評サイト「ALL REVIEWS」を運営する由井緑郎氏(左)と鹿島茂氏(右)

 順調に立ち上がったものの、ビジネスモデルでは誤算もあった。当初はサイトを経由した購買に対するアフィリエイト収入や、サイト上に掲載するウェブ広告からの収入を見込んでいたが、「それだけでは想定の10分の1の利益しか出なかった」(由井氏)という。

 そこでALL REVIEWSが打った次の手が、有料会員サービス「ALL REVIEWS友の会」だった。月額1600円(2020年5月入会の場合)で入会すると、月に2回、書評家や小説家がおすすめの本について語るYouTube番組を視聴できる。さらに、会員にはALL REVIEWSの仕組みや人脈を利用した様々な企画立案の機会も与えられる。会員の企画から、前述の沼野氏とともに書店を巡るツアーなどのイベントも実現したという。

 本や書評を読むだけでなく、作り手と関わり、出版を盛り上げるような活動がしたいという読者は予想以上に多かった。それを由井氏に確信させたのは「友の会」だけではなかった。由井氏がサイト運営を手伝うボランティアを募集したところ、ALL REVIEWSや書評家のファン100人以上が集まったのだ。それまでは由井氏が1人で担っていた記事の校正などの作業を遠隔でボランティアに任せることで、サイト運営もより持続的になった。ボランティア同士の交流も自然と生じ、ALL REVIEWSを中心としたコミュニティーが育ち始めた。

 ALL REVIEWSが発足時から掲げている理念は、「本を本来の姿である『耐久消費財』に戻す」というものだ。書評を再録することで、過去に出版された価値ある本を読者が見つけやすくなる。そうすればロングセラーの本が増え、絶版本を復刊する機運も高まる。結果として1冊の本の寿命は長くなり、古書の市場にも活気が生まれる。書評を起点に、出版業界全体を動かそうとする試みだ。

ALL REVIEWSのウエブサイトの設計と運営は由井氏が担当している
ALL REVIEWSのウエブサイトの設計と運営は由井氏が担当している

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