「来場者とのコミュニケーションを第一に考えて出店者に声をかけた。本に関する基礎知識が豊かで、臨機応変に本をお薦めできる人だ」

 そう語るのは、「本屋さん、あつまる。」の旗振り役である、ほぼ日取締役でほぼ日の学校長の河野通和氏だ。このイベントの目的は、出店者が来場者とじっくり話して、本を紹介し、読書への入り口を提供すること。そのために河野氏は書店員や編集者の人柄やコミュニケーション能力を重視して企画を取りまとめた。

 実際、来場者の多くは「ほぼ日刊イトイ新聞」のファンであり、必ずしも読書家ばかりではなかった。しかし新潮社の「十二国記屋」では、『十二国記』シリーズを長く担当してきた編集者の周りに人だかりができ、普段接することのできない彼女の話を聞くために連日訪れる人も現れたという。

 ほぼ日のスタッフはそうした来場客に声をかけ、ブースからブースへと人の流れをつくっていく。会場の隅には酒や軽食を出すバーを設け、来場者が買った本をその場で読んだり、腰を落ち着けて他の来場者と話したりできるよう計らった。「来場者、出店者の気分を盛り上げ、より楽しくするためには何をすればいいかと考える。それがほぼ日らしさだと思う」と河野氏は話す。

「本屋さん、あつまる。」の企画を手掛けた、ほぼ日取締役で「ほぼ日の学校」学校長の河野通和氏(写真:加藤康)
「本屋さん、あつまる。」の企画を手掛けた、ほぼ日取締役で「ほぼ日の学校」学校長の河野通和氏(写真:加藤康)

 河野氏はそもそも、キャリアの大半を通じて雑誌に携わってきた人物だ。東京大学文学部ロシア語ロシア文学科を卒業し、1978年に老舗出版社の中央公論社(現・中央公論新社)に入社。「婦人公論」「中央公論」などで編集長を務め、2008年に退社。10年に同じく老舗出版社の新潮社で季刊誌「考える人」の編集長に就任し、17年の休刊まで同誌を率いた。

 しかし同年にほぼ日に入社後は、紙の雑誌ではなくリアルな学びの場をつくることで、人が本と出合える機会をつくろうと動いてきた。シェイクスピアや万葉集といった古典を「知のエンターテインメント」として楽しむ「ほぼ日の学校」を開校し、様々なゲスト講師を招いたライブ講座を企画している。

 「アカデミックな講座ではなく、カルチャーセンターでもビジネスセミナーでもない。より目的が曖昧で、誰でも入りやすいものを目指している」と河野氏は語る。ほぼ日社長の糸井重里氏が提示した「古典を学ぶ」というお題に対し、雑誌作りを通じて培った企画、人選、伝え方のノウハウを駆使して学校をつくり上げた。「実は、雑誌の特集を作る仕事と似た部分も多い」(河野氏)という。

 並行して、河野氏は「学校長」だけでなく「書店主」の顔も持つようになる。ほぼ日が17年から開催する「生活のたのしみ展」で、河野書店と名乗って本を紹介・販売し始めたのだ。小さなブースに30冊ほどを選んで並べ、お薦めの本やプレゼントにふさわしい本を求める客と話し込んでいるうちに、驚くほど個人的な内容にまで話が及ぶことがあった。「書店員と来店客は浅い関係だからこそ、本を媒介にして深い話ができることがある。そうした親密な感覚が小型書店の良さだと思う」(河野氏)。