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 「止まらない本離れ」「街から本屋が消える」……。暗い話が目立つ出版業界だが、そんな“衰退論”を覆そうとする人々がいる。顧客が本に出合う場を変え、出合い方を変え、出合う意味までも根本から考え直す。そこには他業界にとっても価値がある、人口減時代に生き残るマーケティングのヒントがある。

 今年1月31日~2月1日に開催された「二子玉川 本屋博」の会場で、元書店員の田口幹人氏は「本屋始めませんか」と来場者に呼びかけていた。田口氏が現在勤務する出版取次会社、楽天ブックスネットワークが提供する書籍の少部数卸売りサービス「Foyer(ホワイエ)」を使えば、誰でも地域の交流のハブになる「まちの本屋」の役割を担えるという思いからだ。

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 ただし、こうした普及活動は楽天ブックスネットワークでの業務というより、田口氏の個人活動の側面が強い。本屋博で田口氏が立っていたブースの名前は「語夢万里文庫」。これは友人らと社外で活動する際のチーム名であると同時に、田口氏がかつて感じた“悔しさ”を象徴するキーワードでもあった。

「二子玉川 本屋博」で「語夢万里文庫」のコーナーに立つ田口氏

潰してしまった「まちの本屋」

 15年以上前、人口1万人に満たない小さな町、岩手県西和賀町の商店街に、「まりや書店」という本屋があった。面積は20坪程度と広くはないが、農業や郷土史、まちづくりに関する書籍をそろえ、地域活性化に貢献しようという気概を持った店だったという。その店こそが田口氏の生家だ。

 子供の頃、店の奥には書店を経営する父の蔵書が収められた空間があり、「語夢万里文庫」と名づけられていた。そこで本に触れて育った田口氏は、書店員の道を自然と志すようになる。いずれは実家の店を継ごうという思いで、盛岡市内の中規模書店「第一書店」に入社し、5年半、書店員としての基礎を身体にたたき込んだ。その間にも、「父のように地域と向き合う書店員になりたい」という思いは膨らんでいった。

 しかし、満を持して舞い戻った地元で田口氏が直面したのは、バブル崩壊後に急速に衰退した地域経済と、営業を続けるだけで精いっぱいのまりや書店の姿だった。商店街の有志とともに地域再生に向けた様々な手を講じたものの、書店の方が先に力尽きた。地元に戻って7年目の2005年、田口氏は両親から引き継いだ「まちの本屋」を、自らの手で閉める決断を下すことになる。「在庫をすべて返品して空っぽになった店を、今も忘れられない」(田口氏)

田口氏はまりや書店の店内にあった「語夢万里文庫」の看板を今でも大切に保管している