最低1冊から本を卸す

 「ホワイエ」は楽天ブックスネットワークが運営する本の少部数卸売りサービスだ。

 大多数の新刊書店は商品を出版社から直接仕入れているわけではなく、日本出版販売(日販)やトーハン、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社と呼ばれる卸業者を介して調達している。取次は出版社から雑誌の最新号や新刊書籍を受け取り、過去の売り上げデータなどを根拠に各書店に必要な冊数を配送する。この「配本」と呼ばれる仕事が、取次の大きな役割の一つだ。書店には配本冊数の決定権はないが、その代わり、一定期間が過ぎても売れなかった本を取次に返品することができる。書店側の在庫リスクを減らせるこうした委託販売(返品条件付き売買)制度が、日本の出版市場を支えてきたといっても過言ではない。

 しかし、資本のない小規模書店や、商材として書籍を扱いたい他業態の店にとって、この制度は大きな障壁にもなる。大手取次は本の配送や返品に関してリスクを引き受けているため、一定の売り上げが見込めない店との取引は断るケースが多いからだ。また、取引ができたとしても多額の保証金が必要になる。その結果、「小さくてもいいから書店を開きたい」「カフェで店の雰囲気に合った本を販売したい」「雑貨などの商品と一緒に本も売りたい」といった希望は取次に数多く寄せられるにもかかわらず、これまで出版流通の本流からは排除されてきた。

 そんな潜在的ニーズに目をつけたのが楽天ブックスネットワークだった。社名に反して、同社は取次業界の老舗。業界3、4位の大阪屋(1949年創業)と栗田出版販売(1919年創業)の2社が2016年に合併して大阪屋栗田となり、19年に楽天グループ傘下に入って現社名となった。

 日販、トーハンに次ぐ業界3番手としては、独自の強みやニッチ戦略も必要だ。そこで「客の滞在時間延長や店のブランディングのための追加商材として、本を利用したいと考える人が増えている」(構造改革推進本部の吉田正隆氏)と読んだ同社は17年、保証金不要で、最低1冊からでも本を卸売りする「ホワイエ」を事業化した。

 「ホワイエ」では新刊を配本するのではなく、注文に応じて取次の在庫の中から商品を届ける。通常の書店のように最新の雑誌や書籍を並べるほどではないが、店のテーマに合わせて必要な本だけそろえたいという要求に応えられる。家具・インテリア店であればレシピ本や生活に関するエッセー集、生花店であればフラワーアレンジメントや園芸に関する本など、本業との相乗効果が見込める既刊書籍を販売すればいい。そんな取引先の希望に応じて、楽天ブックスネットワークが選書を担当することもある。

 「ホワイエ」はこうして、雑貨店やカフェ、衣料品店、ホテルや美容室など、本を扱うノウハウを持たない取引先をじわじわと開拓してきた。現在、取引先の4分の1ほどが小規模な書店・古書店で、残りは他業態の店が占める。

 1年間に発行される新刊書籍は7万点以上。本は超多品種で売れ筋の予測は難しいが、劣化しにくいという商品特性を持つ。「ホワイエ」を利用する店は本の売り上げ以上に、店舗のイメージ作りや客の滞在時間の延長といった本業への効果を期待しているようだ。来店客の中には書籍に対して知的なイメージを抱く人は多い。「本を置くようになってから客層が変わったと話す取引先もいる」(吉田氏)という。

「ホワイエ」を利用する京都市の雑貨店「NORR KYOTO」の店内の様子
「ホワイエ」を利用する京都市の雑貨店「NORR KYOTO」の店内の様子

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