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 「止まらない本離れ」「街から本屋が消える」……。暗い話が目立つ出版業界だが、そんな“衰退論”を覆そうとする人々がいる。顧客が本に出合う場を変え、出合い方を変え、出合う意味までも根本から考え直す。そこには他業界にとっても価値がある、人口減時代に生き残るマーケティングのヒントがある。

 2020年1月31日~2月1日の2日間、東京・二子玉川駅直結の商業ビルに挟まれた半屋外広場「二子玉川ライズ ガレリア」が、大勢の人でごった返した。建物の間を冷たい風が吹き抜ける中にもかかわらず、来場者は昼から夜まで途絶えない。目当てにしているのは、その場に集まった40店の「本屋」だ。

 このイベント「二子玉川 本屋博」は、二子玉川の蔦屋家電を中心とする実行委員会が、独自の選書や販売の工夫で知られる全国の書店の協力を経て初めて実現したもの。出店者はブックオフコーポレーションが展開する「青山ブックセンター」のような有名チェーンから、店舗を持たない“エア本屋”を名乗る「いか文庫」まで多種多様だ。各店、2~3メートル幅の机にぎっしりと本を並べ、ブース越しに来場者に盛んに声をかけている。

「二子玉川 本屋博」の会場の様子

 一部には絶版本など珍しい商品もあるとはいえ、ほとんどは一般書店でも買える普通の書籍だ。商品単体で見れば、寒い会場にわざわざ足を運ばせる吸引力はない。にもかかわらず、2日間の会期中に約3万3000人が来場し、1万冊以上の本が売れた。

 そのことに驚きの声を上げたのは、当の書店員たちだ。「分厚かろうが高かろうが、ぽんぽん売れた。本が売れないというより、本との出会いがあるべき(あったらいい)場所にないだけ」。青山ブックセンター本店の山下優店長はツイッターでそんな感想をもらしている。00年には2万店以上あった日本の書店数は現在までにほぼ半減し、「出版不況」という言葉も全く耳新しいものではなくなった。しかし、本との出合い求めている人はまだまだ大勢いる――。「本屋博」は業界人にそんな希望を抱かせた。

楽天ブックスネットワーク事業開発本部の田口幹人氏

 その会場で、ほとんど本を売らず、もっぱら熱心にビラを配り続ける人物がいた。田口幹人氏(46歳)。盛岡市の書店「さわや書店フェザン店」から数々のベストセラーを生み出し、業界内ではほとんど知らぬ者はない「カリスマ書店員」だったが、現在は転職し楽天グループ傘下の出版取次会社、楽天ブックスネットワーク(東京・文京)に勤務する。

 田口氏のブースには、こんなメッセージが掲げられている。「『Foyer(ホワイエ)』で本屋はじめませんか」。