「みなさまの今の体調をお聞きし、『感染拡大の状況を正しく把握し、私たちの生活を守ること』を目的に実施します」

 3月31日、あるいは4月5日にスマートフォンのコミュニケーションアプリ「LINE」に、突然このようなメッセージが届いた読者も多いだろう。厚生労働省がLINEの国内8300万ユーザーに対して行った、新型コロナウイルスの感染実態などを把握するための大規模調査だ。

 回答期間はわずか2日。それにもかかわらず初回は2453万ユーザー、2回目は初回を超える2467万ユーザーが回答を寄せた。単純計算すれば、国民の5人に1人が答えたことになる。

 前代未聞の短期間での大調査。LINEが厚労省と「新型コロナウイルス感染症のクラスター対策に資する情報提供に関する協定」を締結したのは調査前日の30日だった。感染拡大が深刻化し、緊急事態宣言が発令されるかどうかの瀬戸際で、企業と省庁のスピーディーな対応によって実施された大調査。その舞台裏とはどんなものだったのか。

 大規模調査を実施するには、それなりの時間が必要になる。だが、時々刻々と感染が広まる今、LINEに与えられた時間はごくわずか。このプロジェクトを指揮したLINEの江口清貴執行役員は「ほんの数日で準備した」と明かす。

 発端は25日のこと。「ダイヤモンドプリンセス号」の乗客向けにスマホを配り、LINEを活用して健康状態などを把握することで協力していた江口氏は、厚労省で担当者から感染拡大防止についての相談を受けていた。その中で江口氏は、LINEを使った大規模な調査を思いついた。

 現在の体調、基礎疾患や直近の通院、陽性患者との接触の有無などに加え、性別や年齢、居住エリアといった属性を問うというもので、LINEは無償で協力する方針を示した。国や自治体が新型コロナウイルスの感染拡大の実態をつかみ切れていない中で、LINEの提案は喉から手が出るほど欲しいデータだ。

 「ほかのプラットフォーマーは位置データや検索履歴など過去のデータを提出して協力する。だが、LINEは今までにないデータを新たに作って協力できる。LINEにしかできないことで力になりたかった」と江口氏は振り返る。

 総務省などはNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの通信キャリア3社やヤフーやグーグルなどのIT大手6社に対して、各社が持つデータ提供の協力を呼び掛けている。米グーグルは2日、ユーザーの携帯電話の位置情報を分析し店舗や公園、通勤のための外出が減っているかを示す131カ国のデータを公開済み。NTTドコモは携帯電話の接続データを利用し、1時間あたりの人の動きを示す「モバイル空間統計」を提供するとみられ、ヤフーも検索データなどの提供で協力する方針を示している。ITプラットフォーマーがそれぞれ、自社が持つデータの活用に動く中、LINEが取ったのは過去のデータによる分析ではなく、今のデータを独自に調べるというものだった。

 LINEの公式アカウントから国内ユーザーすべてに発信することで、幅広い階層から回答を得ることができる。

 前代未聞の大規模調査、その案を江口氏が25日にLINEに持ち帰って役員たちに相談したところ、リスクを懸念する声が多数あがった。