森や田んぼの脇を露天掘りの鉱山のように十数メートル掘り下げた広いくぼ地が視界に入った。東京電力福島第1原子力発電所から5キロメートル圏内。そこへ大型トラックやベルトコンベヤーからひたすら投じられるのは土だ。文字通り「穴を掘って穴を埋める」作業である。
2011年3月の福島第1原発事故で甚大な被害を受けた福島県双葉町と大熊町。両町には上記のようなくぼ地がいくつも作られている。放射性物質に汚染された地域の土をためておく「中間貯蔵施設」。地元43市町村が各地域で除染を実施した際に出てきた土を運び込む。国とは30年にわたり保管すると取り決めている。その後は保管した土は最終処分場に運び出される予定だ。
大きな被害を出しながら原発の地元2町が施設を引き受けたのは、福島の復興を進めるための苦渋の選択だった。だが、難題がある。掘って埋めた後、「また掘り出せるかどうか」である。
事故後、原発周辺の福島県の中通り、浜通りと呼ばれる地域を中心に、農地の土壌表面のはぎ取りや森林での落ち葉回収、道路・建物などの洗浄といった除染作業が進んだ。その中で、最も手間とコストがかかるのが土壌処理だ。
18年3月にはぎ取り作業は終了、福島県43市町村で発生した汚染土(一部草木なども含まれる)は約1400万立方メートルにも及ぶ。これは東京ドームで約11個分に相当する量だ。
これらの土はフレコンバッグと呼ばれる容量1立方メートルの土のうのような袋に入れられ、一旦仮置き場に積まれた後、トラックで中間貯蔵施設に運ばれる。
除染で出た大量の土をフレコンバッグに詰めて運び出す
福島第1原発の西側を南北に走る国道6号線と、そこから海側へ伸びる県道などは日中、そのトラックが今も切れ目もないくらい続く。フレコンバッグにはどれも、重量や放射線量などを記録したバーコードのあるタグがつけられ、トラック自体も全地球測位システム(GPS)を装着、厳密に管理されている。
「約束が守れないなら出て行ってもらう」
貯蔵施設近くの受け入れ施設に到着したフレコンバッグは機械で破られ、振るい機にかけて草木などを取り除く。その後、1キログラム当たり8000ベクレル以下(ベクレルは放射能の量を表す単位)の“汚染度の低い”土はトラックで貯蔵施設に運んで埋める。それより汚染度の高い土は、埋め立て地までベルトコンベヤーで運ぶ。放射性物質の飛散を防ぐためだ。
土自体も途中で細かくし、容量を小さくしてできるだけ多く埋められるようにする。埋め立て地も底に遮水シートを二重に敷き、土をいっぱいにした後、表面にまた遮水シートを敷いて汚染されていない土で上部を覆うようにしている。
振るい機で取り除かれた草木は焼却するが、1キログラム当たり10万ベクレルを超える焼却灰は、鋼鉄製容器に入れて廃棄物貯蔵施設と呼ぶコンクリート製の大型施設に貯蔵することになっている。
どれも徹底した管理と処理が行われているわけだが、問題はその後だ。国は中間貯蔵施設への搬入から30年以内に県外で最終処分をする方針を示しているものの、福島第1原発の汚染水同様、搬出先は決まっていない。地元では、「そのまま置いておかれるのでは」との不安が広がる。
「(双葉町内の)中間貯蔵施設の用地の25%は町有地。30年で搬出する約束が守られないなら(貯蔵施設には)出て行ってもらう」。伊澤史朗・双葉町長がこう言いきるように、地元はこれ以上の負担を引き受けさせられることを拒否する思いが強い。
ただ、一方で東京ドーム約11個分もの土を県外移出するのは容易ではない。そこで検討されているのが、土の改質などをした上で、一部を再利用に回して、県外移出分をできる限り少なくすること。「汚染土は、土の粒の大きさを小さくすれば、放射線量も低くなる」(環境省福島地方環境事務所)ためだ。
再利用の方法は、道路の路盤や盛り土、防潮堤の基礎などが考えられるといわれるが、これも結局は地元での利用を押し付けられるのでは、と疑心暗鬼になる。国の一部からは「1キログラム当たり8000ベクレル以下になる土はできるだけ再利用したい」という“本音”も漏れるが、地元の同意を得る状況にはなっていない。
避難指示解除の地域も
それでも、事故現場に近い周辺自治体は復興の道を歩き続ける。
3月に入り、双葉、大熊両町の帰還困難区域の一部では避難指示が解除(双葉町は初)された。これまで年間被曝(ひばく)線量が20ミリシーベルト以下になっていないとして国は立ち入りを制限してきた地域。今後は「特定復興再生拠点区域」として、宅地や産業インフラの開発が進むことが期待される。
長年にわたり、人けがなくなった帰還困難区域ではイノシシなど野生動物も増殖した。環境省が双葉、大熊、富岡、浪江の各町と葛尾村にワナを設置したところ、これまでに約5000頭ものイノシシを捕獲したという。
避難指示が解除された地域もまだ一部。事故から10年目を迎えようとしているが、原発周辺地域はいまだ除染後の処理とイノシシの駆除に追われている。
この記事はシリーズ「「3.11」から10年目 フクシマ復興の道筋」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?