12月9日に英国のジョンソン首相と欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、対面会談で通商交渉に臨んだ。その後、交渉決裂が案じられたが24日に両者は合意に至った(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
12月9日に英国のジョンソン首相と欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、対面会談で通商交渉に臨んだ。その後、交渉決裂が案じられたが24日に両者は合意に至った(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 クリスマスイブの劇的な合意となった。英国と欧州連合(EU)は24日、自由貿易協定(FTA)など両者の新たな将来関係を巡る交渉で合意した。

 今年1月末にEUを離脱した英国は、12月末までは移行期間にあり、EUと関税ゼロの貿易を維持するなど従来のルールが適用されていた。12月末まで10日を切っても交渉がまとまらず、1月1日から関税が発生するなどの混乱が懸念されていたが、両者はギリギリで合意に至った。

 英議会は年内に協定案を承認し、欧州委員会は欧州議会の同意なしに合意を発効させる特別措置を年内に講じる見込みであるため、年明けに経済活動が混乱する事態は避けられる公算が大きい。

 24日夕方に会見を開いた英国のジョンソン首相と、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は記者会見で、それぞれ合意の成果を強調した。ジョンソン首相は、「私たちは自分たちの法律と運命を取り戻した」と述べ、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「合意は公平でバランスが取れている」と語った。

 実際には、英EU間で公正な競争がゆがめられた場合は必要な措置が取られるほか、5年半にわたり英海域における一定の漁獲量をEUに割り当てるなど、英国側が妥協した側面がある。一方、英国が基本的に関税ゼロでEUと引き続き貿易できるなどEU側が譲歩した側面もあり、協定案は妥協の産物でもある。

 産業界には最悪の事態が避けられ、安堵感が広がっている。英産業連盟(CBI)は、「(経済の)回復力が非常に低い時期において、英国のビジネスに大きな安心感を与える」との声明を出した。また、トヨタ自動車の欧州現地法人は、「新たな貿易協定が無関税貿易を可能とし、適切な期間を与えるものであれば、当社の競争力を支える有益な自動車貿易・投資関係の実現に役立つと信じている」とコメントした。

 ただ、1月1日に英国がEUの単一市場から抜けるため、通関手続きは発生する。そのため、年末年始に物流が混乱する可能性はある。FTAでは優遇関税の対象となる原産地が限られるため、域外の原材料の比率が高い製品は関税がかかることも見込まれている。

 産業界に冷や汗をかかせた通商交渉だが、経済への影響を考えると合意以外に選択肢はなかったという見方もある。その観点では、英政府はEU離脱を決断した世論に配慮するため、欧州委員会はEU加盟国の不満を封じるため、お互いに交渉期限のギリギリまで強硬姿勢を見せる必要があったと捉えられる。

4年半のブレグジット交渉期間に失ったもの

 最終的に合意にこぎつけたが、英国は4年半に及ぶブレグジットの交渉期間中に様々な誤算があった。1つは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。英国は欧州の中でも感染者数と死者数が多く、ロックダウン(都市封鎖)など厳しい規制を繰り返し導入し、経済が大きく傷ついている。20年の国内総生産(GDP)成長率はマイナス11.3%と300年ぶりの落ち込み幅となる見込みだ。

 さらに、足元では新型コロナの変異種が広がり、世界の40カ国以上から渡航禁止の措置を受けている。この状況が長引き、人の往来や物流が滞れば、英国経済はさらなるダメージを受ける。経済復興のために、通商交渉の決裂は許されない状況だった。

 また、主権にこだわる英国の姿勢は、地方の独立心にも火をつけている。英北部のスコットランドはもともとEUとの貿易関係が強く、EU残留の支持者が多かった。英政府がEUと距離を取ろうとする動きに反比例し、EUとの距離を縮めようとしている。

 スコットランド自治政府のスタージョン首相は、独立を問う住民投票の機会をうかがっている。英政府が住民投票の実施を阻止する場合は、法的措置を辞さない構えで、強硬姿勢を強めている。

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