ドイツ・ダイムラーの高級車事業会社、メルセデス・ベンツが電気自動車(EV)シフトを急いでいる。今年7月には、市場環境が許せば2030年にすべての新車販売をEVに切り替えることを宣言した。21年1~9月期には「EQC」を約1万8000台、「EQA」を約1万3000台とEVの販売実績を積み重ねている。8月から主力の「EQS」の販売が始まるなど、ライバルの独BMWに比べてもその発売ラッシュには目を見張るものがある。他社に先駆けたEVシフトには、どのような勝算があるのか。同社COO(最高執行責任者)のマーカス・シェーファー氏に話を聞いた。

ドイツのメルセデス・ベンツは9月の独ミュンヘン国際自動車ショーで、新型EV「EQE」を発表した (写真:Mari Kusakari)
ドイツのメルセデス・ベンツは9月の独ミュンヘン国際自動車ショーで、新型EV「EQE」を発表した (写真:Mari Kusakari)

メルセデスは以前、2030年までに新車販売の半分をEVにする目標を発表していました。これを今年7月、30年までに新車販売すべてをEVにするという目標に変えたのはなぜですか。

マーカス・シェーファーCOO(以下、シェーファー氏):我々は「アンビジョン2039」と呼ぶ戦略で、2039年までにすべての新製品でカーボンニュートラル(温暖化ガス排出実質ゼロ)を達成するという大きな目標があります。EVの新製品を展開していく中で、規制にせかされたくないと考えたのです。我々は人々が好み、買ってくれるEVをつくれます。従来の燃焼エンジン車ともはや変わりない、大変魅力的なEVです。コストも下げられる見込みがあり、それにより製品の電動化を加速できると考えています。

 そのため、2030年にはすでに、状況が許す限りすべての市場でEVを100%展開していくことを目標としました。2025年にはすべての車種で電動モデルが選べるようにし、さらに来年の2022年にも各セグメントで電動モデルが選べるようにします。

メルセデス・ベンツCOOのマーカス・シェーファー氏 (写真:Mari Kusakari)
メルセデス・ベンツCOOのマーカス・シェーファー氏 (写真:Mari Kusakari)

燃焼エンジンの開発と生産をやめ、EVに特化することへのちゅうちょはありませんか。経営陣では、どのような議論がなされたのでしょうか。

シェーファー氏:経営陣全員が純EVに移行する戦略を支持し、同意しました。電動バッテリー搭載の乗用車以外の選択肢はありません。全員が、グリーンエネルギーを推進するためにはEVが最も効率的な解決策であると納得しています。

 メルセデスは燃料電池に関して豊富な経験を持っています。トラック事業においては、燃料電池は長距離走行に適したものとなるかもしれません。ただ乗用車においては、経営陣の誰もがEV専業化に対し同じ意見を持っており、エンジニアとも合意しました。燃焼エンジンに携わっていたエンジニアでさえ、この転換を成功させる方法は一つしかないと理解しています。

 これは大きな変化です。乗用車用の燃焼エンジンに携わる従業員約2万5000人に影響します。様々な工場にいる従業員や労働組合など、多くの人と共に変化を起こしていくのが私たちのやり方です。

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