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 スウェーデンの新型コロナウイルス対策が、世界の耳目を集めている。春の第1波で多くの感染者と死者を出したものの、他の欧州諸国のようにロックダウン(都市封鎖)など厳しい規制を導入しなかったためだ。

 夏から欧州で感染の再拡大が始まり、各国が第2波に苦しむ中で、10月頃までスウェーデンでは感染者がそれほど増えなかった。一時は、第1波で感染者が多かったために集団免疫を獲得したのではないか、との見方もあった。ところが、11月から感染者が再び急増し、1日当たりの感染者数は多い日で7000人に達している。スウェーデン政府は24日から9人以上の集会を禁止するなど規制を強化したが、それでもロックダウンの導入は否定している。

 厳しい規制を導入しないことに対しては、スウェーデン国内の専門家からも反対の声が上がっている。スウェーデンではコロナ対策に批判的な科学者の団体が結成され、公衆衛生庁に国民へのマスク着用を義務付ける提言などをしている。国外でも関心が高く、「ノーガード戦法で高齢者を犠牲にしているのではないか」という批判の声もある。

 では実際に医療現場はどのような状況で、現場の医師はどのように考えているのだろうか。スウェーデンのカロリンスカ大学病院に勤める宮川絢子医師に最新状況を聞いた。

■シリーズ「第2波」のラインアップ(予定)
第1回:欧州、感染者が第1波の約4倍で「半ロックダウン」へ
第2回:英国が第1波より感染者激増も死者数89%減のワケ
第3回:フランス、「ロックダウンの罠」でコロナ死者急増の恐れ
第4回:英病院の看護師長「もうコロナの戦場には戻りたくない」
第5回:イタリアとスペインのGDP1割縮小が示す欧州の構造問題
第6回:コロナ対策の優等生ドイツでも感染急拡大を止められず
第7回:またもノーガード戦法?スウェーデン医師に聞く最新状況
第8回:スウェーデン教授に聞く、ロックダウン拒否の理由
第9回:増える土足厳禁、欧州で変わる生活習慣
第10回:冬のロックダウンでメンタルヘルス問題は?

スウェーデンでは他の欧州諸国と異なりマスク着用義務がなく、街中ではマスクをしている人がほとんどいない。写真は10月中旬、中部ウプサラ市で撮影(写真:ロイター/アフロ)

スウェーデンは11月から感染者が急増しています。最新の状況を教えてください。

宮川絢子医師(以下、宮川氏):入院患者がどんどん増えているので、11月20日から病院全体が通常診療を縮小し、コロナ診療に切り替えています。私が勤務する病棟のベッドは全てコロナ患者専用になりました。少し前に比べると病院の状況が大きく変わっています。私は呼吸器や感染症が専門ではないのですが、コロナ患者の診療に回っています。

新型コロナ患者の症状や病院の診療など、春の第1波との違いはありますか。

宮川氏:まず、春は検査能力が限られていたので、検査能力が拡充した今とは、感染者数の比較は単純にはできないと思います。感染者が増えているのは、欧州全体に第2波が来ているのと、寒くなったことも影響しているのではないでしょうか。

 春の第1波でも病院は通常診療を縮小し、コロナ診療を拡大していきました。コロナ患者を多く診察している同僚医師は、春よりも軽症で入院する患者が多いので対応がしやすいと言っています。実際、全体の入院患者からすると集中治療室(ICU)に入る患者の割合は低くなっています。

宮川絢子(みやかわ ・あやこ)医師
スウェーデン・カロリンスカ大学病院泌尿器外科医。1989年、慶応義塾大学医学部卒業。カロリンスカ研究所と英ケンブリッジ大学で博士研究員、慶応義塾大学や琉球大学、東京医科大学などでの勤務を経て、2008年より現職。開腹手術とロボット支援による内視鏡的手術で多数の実績がある

第2波においてスウェーデンで1日当たりの新規感染者が7000人を超える日があり、第1波のピーク時の約4倍の感染者になっていますが、1日当たりの死者数は多い日でも約40人で、第1波の半分以下の水準です。医療現場において改善していることはありますか。

宮川氏:第1波の経験で知見を積んできました。例えば、スウェーデンの人々は日本人に比べて血栓の発症率が高いので、早い段階で血栓を防ぐ薬を使い始めています。ICUでも患者さんの体位を変えるだけでかなりの改善が見られることが分かったので、春に比べると人工呼吸器をつけるタイミングを遅らせることができています。医師や看護師がビデオでの講習会や書類を通じて、情報の共有を図っています。

スウェーデンはこれまでも大規模な集会の禁止や、介護施設への訪問を控えるなどの対策をしてきましたが、感染拡大を受け11月24日からジムや図書館に行かないように呼びかけ、9人以上の集会を禁止しました。

宮川氏:日本などから「スウェーデンはノーガード戦法で高齢者を見殺しにしている」と批判されることがありますが、それは誤解です。これまでスウェーデン公衆衛生庁は国民に対し、推奨という形で様々な新型コロナ対策を呼びかけていました。第2波でも推奨が多いのですが、11月からバーやレストランでのアルコールの販売を午後10時以降は禁止するなど規制が増えています。

 確かに第1波では介護施設において多くの高齢者が亡くなってしまいましたが、それには雇用など介護システムが抱える問題が絡んでおり、ロックダウンとはあまり関係がないことでした。その後は、介護施設でも様々な対策が取られています。