英政府は12月2日、新型コロナウイルス用ワクチンの使用を承認したを発表した。対象は米ファイザーと独ビオンテックが開発したワクチンで、承認は先進国で初めてとなる。7日にも医療機関などで接種を始める予定だ。
しかし、大規模な接種が始まるのは年明けからであり、多くの人が接種を受けるのまでには時間がかかるだろう。またワクチンは万能ではなく、世界中の人々の生活がすぐに元の日常に戻れるようになるとは考えにくい。しばらくは、新型コロナと付き合う日々が続きそうだ。
欧州ではまだ感染拡大の第2波が続いている。前回も報じたように、スウェーデンでは11月から感染者が再び急増し、1日当たりの感染者数は多い日で7000人に達している。政府は24日から9人以上の集会を禁止するなど規制を強化したが、ロックダウン(都市封鎖)のような他の欧州各国が導入する厳しい規制に対しては、反対の姿勢を示している。同国では多くの欧州諸国とは異なり、マスク着用も義務付けていない。
なぜ、スウェーデン政府は新型コロナ対策で独自路線を貫くのか。スウェーデンのイエーテボリ大学政治学科のジョン・ピエール教授にインタビューを実施したた。少々長くなってしまうが、日本ではあまり知られていない移民や地方における新型コロナ対策の問題についても話を聞いた。
■シリーズ「第2波」のラインアップ(予定)
第1回:欧州、感染者が第1波の約4倍で「半ロックダウン 」へ
第2回:英国が第1波より感染者激増も死者数89%減のワケ
第3回:フランス、「ロックダウンの罠」でコロナ死者急増の恐れ
第4回:英病院の看護師長「もうコロナの戦場には戻りたくない」
第5回:イタリアとスペインのGDP1割縮小が示す欧州の構造問題
第6回:コロナ対策の優等生ドイツでも感染急拡大を止められず
第7回:またもノーガード戦法?スウェーデン医師に聞く最新状況
第8回:スウェーデン学者が警告「厳しい規制が次の感染爆発を起こす」
第9回:増える土足厳禁、欧州で変わる生活習慣
第10回:冬の規制強化でメンタルヘルスの問題は?

スウェーデンの新型コロナ対策については、日本でも関心が高まっています。
イエーテボリ大学政治学科のジョン・ピエール教授(以下、ピエール氏):日本の方が興味を持つのはよくわかりますよ。私にも日本人の友人がいます。彼とは数週間前に、スウェーデンのコロナウイルス対策について話をしました。
スウェーデンでは、政府機関が「こうしなさい」という厳格な命令を下すのは大変珍しく、勧告や推奨という形をとることがほとんどです。「皆がソーシャルディスタンスやその他のルールを守れば国を助けることにつながる」と訴えかけるのです。日本人の友人はそれを聞いて笑っていました。日本の戦略と同じじゃないか、と。
強い社会的規範があるので、大仰なことをしなくても多くの人が従ってくれますし、コミュニケーションの取り方はかなり柔軟にできます。日本とスウェーデンは似ているところがあると思います。

ただ、日本政府と違い、スウェーデン政府にはあえて厳しい規制を導入しないという信念を感じます。まず、感染者が急増してもスウェーデン政府がロックダウンを導入しない理由を教えてください。
ピエール氏:はい、まずは簡潔に説明しますね。その背景には、さまざまなことが組み合わさっています。1つは、国民に規則や法の支配を強制するのではなく、勧告や推奨をした方が、スウェーデンの文化に合っているからです。スウェーデン人は政府や公共サービスに厚い信頼を寄せているので、勧告に対して国民は政府が正しいことをしているのだろう、それが政府の望むことなら従おう、という気持ちになるのです。
他の理由としては、公衆衛生庁で議論されている事柄に関係しています。まず、政治家は立ち入らずに感染症の専門家に任せると判断しました。なので、スウェーデン人は基本的に専門家の言うことに従うわけです。
政治的に難しい疑問は、「集団免疫はそれ自体がゴールなのか、それとも他にゴールがあるのか」ということです。公衆衛生庁で新型コロナ対策を指揮するアンデシュ・テグネル氏は、この質問をされたときに「いや、集団免疫自体はゴールではなく、副産物として捉えている」と答えていました。
それに加え、ロックダウンは長く続けられないという考えがあったからです。ロックダウンは一時的なものでしかなく、しばらくたった後に、それに対する反発や無視が広がる恐れがあります。
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