35年までの「脱エンジン」は、欧州市場のみ
ドイツとVWは、強力にEVシフトを進めている。ドイツ政府は、EVの購入に対し多額の補助金を与えており、21年1〜9月では新車販売の1割以上がEVで、プラグインハイブリッド車(PHV)と合わせると2割以上の比率になった。
VWは、21年1~9月期に前年同期比で約2.4倍の29万3100台のEVを出荷。同じ期間でのPHVの出荷台数は前年同期比で約2.3倍の24万6000台だった。半導体不足の影響があるものの、引き続き右肩上がりの出荷が続いている。

VWのヘルベルト・ディース社長は、「内燃機関からeモビリティーへの移行を経験している」と言い、今後10年で内燃機関の市場は20%減少するとの見通しを示している。
だが、その中身や展望は単純ではない。COP26のZEV宣言では35年までに主要市場で新車販売の全てをZEVにするとしているが、VWが35年までにエンジン搭載車の販売をやめるのは「欧州市場のみ」だ。
背景には、欧州委員会が同様の規制導入を提案していることがある。VWは35年以降に米国や中国など主要市場の新車販売を全てZEVに切り替えることを示唆しており、COP26のZEV宣言より遅いタイミングとなる。また、南米やアフリカなどの地域では引き続き、内燃機関が必要という見解も示している。
ブランド別でも現実主義は垣間見える。高級車ブランドのアウディは6月、26年以降に全ての新型車をEVとすることを宣言し、33年までにエンジンの生産を打ち切ることを発表した。しかし、中国ではエンジン生産継続の意向を示している。
つまり、VWが強烈なEVシフトを進めているのは間違いないが、世界レベルでの「脱エンジン」では先頭を走っている訳ではない。特にVWグループの利益の多くを稼ぐポルシェは、EVシフトを進めながら、エンジン存続の道を探り、CO2排出量の少ない燃料の開発を続けているほどだ(参照:ポルシェ開発トップ「CO2排出、問題はエンジンではなく燃料だ」)。
VWとトヨタの戦略は大きく異なる部分もあるが、共通する部分も多い。小型車から大型車、低価格車から高級車を世界中で販売するフルラインアップメーカーとして、早期の脱エンジンを約束するのは現実的ではないという判断がある。両社は、規模の小さいメーカーのように特定の技術に特化することが難しい。
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