「飛び恥じゃないか」──。11月初旬、世界中の各国首脳や経営者が、専用機やプライベートジェットなどを利用して、英グラスゴーに飛んだことが批判されている。第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)というCO2削減を話し合う会議であるにもかかわらず、少人数用でCO2排出量の多い航空機を使ったためだ。

 この問題を技術革新で、解決しようとする動きが世界的に広がっている。廃食油や動物油などから再生燃料を生産し、それを持続可能な航空燃料(SAF)として活用する動きだ。SAFは従来の石油由来の航空燃料に比べ、CO2排出量を約90%削減できるという。その中で、最も注目を集める企業が、フィンランドのネステだ。1990年代から再生燃料事業に取り組み、この数年はSAFの供給量を増やしている(参照:ANAが頼った再生燃料の世界最大手、赤字続きからの逆転劇)。

 ネステはフィンランドのポルボー、オランダのロッテルダム、シンガポールの世界3カ所で再生燃料を生産する。現在、SAFを生産しているのはポルボー工場だけだが、2022年からシンガポール工場、23年からはロッテルダム工場でも生産を開始する。9月にロッテルダム工場を取材した。(前回の記事で予告していたオーステッドのアジア太平洋地域代表のインタビューは後日公開します)

 9月、オランダの商業都市、ロッテルダムの中央駅から車で湾岸に向かった。欧州最大のロッテルダム港には巨大な石油化学コンビナートがあり、地元の石油メジャー、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルの貝殻の企業ロゴが至る所に見えてくる。多くのプラントを通り過ぎた、港の先端近くにネステのロッテルダム工場がある。

 出迎えてくれたのは、ハンノ・シャウテン工場長だ。プラントの概要を聞いた後に、念入りな安全指導を受け、ここが燃料プラントであることの実感が高まってくる。ユニホームや安全装具をまとい、工場に足を踏み入れた。

再生燃料の世界最大手ネステは、オランダ・ロッテルダムに工場を持つ(写真:Yuriko Nakao)
再生燃料の世界最大手ネステは、オランダ・ロッテルダムに工場を持つ(写真:Yuriko Nakao)

 工場に入るとまず、食品工場のようなにおいが漂ってくる。廃食油や動物油など、食品関連の工場やレストランでも扱うものを原料としているからだ。ネステが集めている原料は、10種類以上に及ぶ。

ロッテルダム工場では廃食油など10種類以上の原料を受け入れている(写真:Yuriko Nakao)
ロッテルダム工場では廃食油など10種類以上の原料を受け入れている(写真:Yuriko Nakao)

 工場内に原料のサンプルが展示されているが、色も組成も様々な原料を受け入れていることが分かる。工場の岸壁に着いた運搬船からパイプを伝い、原料はタンクに貯蔵される。この運河は、3月にエジプトのスエズ運河で座礁したコンテナ船、エバーギブンが通過したこともあるという。それほど規模の大きな運河だ。

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