パナソニック空質空調社の道浦正治社長は、10月初旬にフランス・パリで新型のヒートポンプ式暖房・給湯機を披露した
パナソニック空質空調社の道浦正治社長は、10月初旬にフランス・パリで新型のヒートポンプ式暖房・給湯機を披露した

 欧州で未曽有のインフレが続いている。10月のユーロ圏の消費者物価指数(CPI、速報値)は前年同月比10.7%上昇。統計で比較可能な1997年以降で過去最高を6カ月連続で更新した。英国のCPIは9月に前年同月比で10.1%上昇し、約40年ぶりの高水準だ。

 欧州の生活者の大きな関心事はエネルギー価格だ。どの国でもガス価格が前年に比べ急上昇しており、各国政府が補助金で価格上昇を抑えるもののバラツキがある。ドイツのように財政が豊かな国は2023年から電気やガスの上限価格を導入するが、それが十分にできない国もある。

 こうした中、注目されている製品がある。省エネ性能の高いヒートポンプ式の暖房・給湯機だ。

 「ヒートポンプ式への引き合いが強く、作り切れない」。うれしい悲鳴を上げるのは、パナソニック傘下で空調事業を手掛ける空質空調社の道浦正治社長だ。「この1年の売り上げは前年の2倍以上になっている」と話す。

 欧州で主流のガスボイラー式暖房・給湯機は、ガスを燃焼させ水を温める仕組みでエネルギー効率が高くない。それに対して、ヒートポンプ式は電気で冷媒を圧縮して熱を生み出して温水をつくり、暖房や給湯に用いる。ガスボイラー式に比べて二酸化炭素(CO2)排出量を約65%削減できる。従来はガス価格が安かったため、効率の悪いガスボイラー式が主流だったが、ガス価格の急騰によりヒートポンプ式の需要が急増しているのだ。

 これまで欧州の暖房・給湯機市場は、欧州勢のガスボイラー式が強かった。ヒートポンプ式は日本勢のお家芸といえる分野だ。エアコン開発などで培った技術力があり、既に日本ではエコキュートという高効率給湯器としての実績がある。こうした技術力と実績をひっさげ、各社が欧州で攻勢をかけている。

 パナソニック空質空調社の道浦社長は10月初旬の空調機器や冷暖房技術の見本市「インタークリマ」で記者会見を開き、欧州市場での事業展開に力を入れることを熱心に説明した。同社はチェコとマレーシアにヒートポンプ式暖房・給湯機の工場を持つ。25年度までに生産増強や技術開発、マーケティング強化に約500億円を投じ、20年代後半には生産能力を年間100万台程度に引き上げる。

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