ジョンソン英首相は10月31日に緊急会見を開き、11月5日から12月2日までの約1カ月間、イングランドでロックダウン(都市封鎖)を実施すると発表した。在宅勤務が難しい場合の出勤や登校、軽い運動、必需品の買い物などを除き、外出を制限する。飲食店や娯楽施設の営業を禁じる一方、学校や大学は閉鎖しない。スコットランドやウェールズ、北アイルランドついては、それぞれの自治政府が独自の規制を導入している。

 ロックダウンに否定的だったジョンソン首相が方針を転換したのは、新型コロナウイルスの感染者や入院患者、死者の増加に歯止めがかかっていないからだ。10月31日に1日当たりの新規感染者は2万1915人、死者は326人で上昇傾向が続いている。コロナ患者の入院が第1波のピーク時の約6割まで高まり、同首相は「対策を取らなければ、1日当たり数千人の死者が出るというデータを責任ある首相なら無視できない」と語った。

 コロナ対策で特に重要なのは、医療崩壊を防ぐことだ。ジョンソン首相は、「このままでは病院の受け入れ能力を超え、医師や看護師が誰が生きて、誰が死ぬのか患者を選別しなければならなくなる」と述べた。実際、春の第1波では重症患者が短期間に急増し、イタリアの病院で受け入れ能力を超え、多くの死者を出してしまった。

 今、英国の病院はどのような状況なのか。第1波から何を学び、何を変えたのか。ロンドンにある大学付属病院に17年勤務し、現在は看護師長を務めるロッシ真由美氏に話を聞いた。

■シリーズ「第2波」のラインアップ(予定)
第1回:欧州、感染者が第1波の約4倍で「半ロックダウン」へ
第2回:英国が第1波より感染者激増も死者数89%減のワケ
第3回:フランス、「ロックダウンの罠」でコロナ死者急増の恐れ
第4回:英病院の看護師長「もうコロナの戦場には戻りたくない」
第5回:第1波の震源地、イタリアとスペインは何を変えたか
第6回:ドイツも感染者急増、医療崩壊は起きないのか
第7回:スウェーデンの独自路線は奏功したのか
第8回:スウェーデンの専門家が語るロックダウンの弊害

ロッシ真由美氏
大分県出身。1996年、大分市医師会看護専門学校卒業後、大分市医師会立アルメイダ病院にて勤務。2002年渡英、Nursing and Midwifery Council (NMC)によるOversea Nursing Programs修了後、英国看護師免許を取得。2004年よりロンドンにある大学付属病院に勤務。13年から看護師長(写真:永川智子)

ロッシさんはロンドンにある大学付属病院で、長く看護師をしていますね。病院ではどのような役割を担っていますか。

ロッシ真由美氏(以下、ロッシ氏):ロンドンでは17年間、日本を合わせると20年以上、看護師として医療現場に従事しています。2013年から看護師長という立場で60人ほどの看護師たちを率いて、普段は特殊な病気の患者さんの治療に当たっています。新型コロナの感染拡大が始まってからは、コロナ対策用のチームを組み、現場でコロナ患者に向き合っています。

 英国では日本に比べてコロナ患者が非常に多く、治療の中で少しずつ知見が高まりつつありますので、日本のみなさんのお役に立つように英国の医療現場の現状と改善点などをお伝えしたいと思います。

英国では9月以降に1日当たりの新規感染者と入院患者が増えています。特にマンチェスターなどの中西部で入院患者が急増しており、それに比べるとロンドンの増え方は急ではないと報道されています。ロッシさんが勤務する病院の現状を教えてください。

ロッシ氏:ロンドンでも感染者は急増しています。しかし、医療現場はまだ春の第1波ほど切迫していません。私が勤務する病院では、第1波において30床ある集中治療室(ICU)がすぐに満床になり、急きょ病床を増やしましたが、夏以降は空きが出るようになりました。感染者が増えてきた10月中旬以降は半分ほどをコロナ患者が利用しています。医療防護具や人工呼吸器も十分に確保されている状況です。

 だからと言って油断できません。感染者が急増しているので、今後重症者が増える可能性があります。それと、病院スタッフの人手不足を懸念しています。既に新型コロナやインフルエンザなどに感染し、出勤できない人が増えています。その状況で入院患者が急増すると、人手不足による医療崩壊が起きかねません。

ICUでの対応は、体力的に2時間が限界

第1波において、病院の最前線はどのような状況でしたか。

ロッシ氏:かつてないほどの修羅場でした。3月上旬までは政府からも強い要請がなく、現場でもそんなにひどくなるとは思っていませんでした。ところが、3月末ぐらいから急に新型コロナの入院患者が増え、重症者が急増しました。4月10日前後がピークだったでしょうか。

 入院患者が驚くスピードで増え、日々手探りで対応せざるを得ませんでした。未曽有の緊急事態に病院のスタッフは使命感に燃えて結束し、なんとか難局を乗り越えましたが、ICUはまるで戦場のようでした。

 一般的なインフルエンザですと、ひどい症状は長く続かないのですが、新型コロナはそれが長く続いて、急に低酸素状態で意識がなくなり、肺が機能しにくくなります。人工呼吸器を着けて肺が機能しやすくするために、定期的に患者さんの姿勢をうつ伏せにするのですが、これがたいへん重い。英国の人々は体が大きい上に、力が抜けている人は非常に重く感じるんですよね。

どのように患者さんを動かすのでしょうか。

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