WFPはロヒンギャの難民キャンプにいち早く駆けつけた
確かにWFPのデイビット・ビーズリー事務局長は「ロヒンギャ難民の危機が発生した初日から食料を提供してきた」と述べています。WFPは現地でどのようにインフラを作っているのでしょうか。
出雲氏:インフラのつくり方は非常に合理的です。本格的な設備ではなく、スピード重視で仮設インフラをどんどんつくります。確かに太陽光発電などは1時間に数回電気が止まることもあります。しかし、それはパソコンなどを再起動すれば済む話ですよね。それより、いち早くできるだけ低コストでインフラを整えることの方が大事であることをWFPは誰よりも分かっています。
他の国連組織は長期の目標を立て、大きな組織を動かすので、動きがそれほど早くありません。加えて、大半の組織が欧米に本部を置き、アフリカや中東、南米に焦点を当てることが多く、最近は特にシリアに支援が集中しています。その中ではアジアの優先順位が低く、80万人ものロヒンギャの難民がいるにもかかわらず、十分な支援がなされていません。

しかし、WFPはロヒンギャ難民は重要な問題だといち早く認識し、どの組織よりも早く人員を送り込みました。また、WFPはエリアマネジャーなど現場に任されている権限と資金が大きく、緊急事態に対応できるような組織体制になっているので即応性が高いのです。
ロヒンギャ難民のキャンプの近くにコックスバザールという街があるのですが、WFPはいち早くここに難民問題のための特別チームの拠点を用意しました。そのチーム代表が中井恒二郎さんという方で、一緒に頑張ろうと話し合ってきました。様々な人を巻き込み、WFPとユーグレナ、バングラデシュ政府と日本の外務省が一緒になり、事業連携の仕組みをつくり上げました。
WFPはそれぞれの分野に専門家がいるのですが、アジアの農業には詳しくなかったので、そこは我々が担当させてもらいました。我々が現地で農業指導をしてコメの収量を高め、WFPが当初見込んでいたコストの半分で2倍のコメを収穫できています。
すべての難民が電子マネーで食料を購入
実際、ロヒンギャの難民キャンプでは、どのように食料を配給しているのでしょうか。
出雲氏:調達から配給までのロジスティクスを整えると同時に、全員に行き渡るように不正対策をしなければなりません。残念ながら、他人の配給を奪う人もいるので、WFPはそれを防ぐためにロヒンギャの難民1人ひとりに毎月9ドル(約950円)相当の電子マネーを提供しています。その電子マネーを使い、WFPと提携した小売店から食材を購入できます。
WFPがロヒンギャ難民の情報をカードに登録し、そのカードに電子マネーを入金しています。そのカードは顔写真と指紋、電子マネーが3点セットになっているので不正ができず、1人ひとりに確実に必要な食料を購入できる仕組みになっています。今年の3月に難民キャンプを訪れた際には、この仕組みが完成していました。これを80万人に広げるのは本当にすごいことです。WFPはこの仕組みをシリアで成功させ、ロヒンギャ難民のキャンプにも持ち込んだようです。
余談になりますが、日本では国民1人当たり10万円の現金給付がありましたが、給付が非常に遅れました。マイナンバーと振込口座がひも付いておらず、郵送などでその確認作業を続けていたためです。給付に多額の行政コストがかかったともいわれています。給付の手続きを見ると規模は違いますが、日本よりロヒンギャの難民キャンプの方がデジタル化が進んでいるのではないでしょうか。
改めてユーグレナとWFPの事業連携の経緯を教えてください。
出雲氏:我々は14年からバングラデシュの首都ダッカで、子供たちの不足している栄養素を摂取できるユーグレナクッキーを無償で提供してきました。累計のクッキー配布数は1000万食を超えています。ロヒンギャ難民がバングラデシュで増え始めた17年12月に、我々は自主的にユーグレナクッキー20万食分を難民キャンプに届けました。
WFPからすぐにでも食料を届けてほしいという要望があったので、ユーグレナとの事業連携がまとまりました。WFPとの事業では、我々が農家にコメと緑豆の生産指導をし、収穫物を購入し、WFPに販売するという流れになっています。共同事業は2021年1月までですが、新型コロナの感染拡大で今後はどうなるか分かりません。
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