米国のトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染し、10月2日に入院した。4日昼の会見で主治医から「(健康状態に)浮き沈みがある」という説明があった。危機管理の甘さを露呈したほか、選挙集会に参加できないため、1カ月後の大統領選は不利になるとの見方が多いが、本当にそうなのだろうか。

 トランプ米大統領が新型コロナに感染したニュースは、英国でも連日トップ扱いで報じられている。米政府関係者の発表内容が食い違っていたため当初は混乱があったものの、報道を総合すると感染の初期には血中酸素濃度が下落するなど深刻な症状が見られたが、快方に向かっているようだ。

 4日昼の時点で、主治医は「(健康状態は)良くなってきている」と説明した。しかし、新型コロナは感染後しばらくした後に症状が悪化するケースがあるので、予断を許さない状況だ。

トランプ氏は大統領選の世論調査で劣勢

 トランプ大統領の新型コロナ感染が、1カ月後に迫った大統領選にどのような影響をもたらすのか。各種世論調査によると、トランプ大統領は民主党のバイデン候補にリードを許している。

 トランプ大統領やその側近はマスク装着などの感染予防を怠っていたと指摘されている。今回はトランプ大統領だけでなく、側近が次々と感染している。感染は危機管理の甘さを露呈し、大統領選に不利に働くとの分析が多い。劣勢が伝えられる終盤戦で、選挙集会に出席できないのも痛手だ。

 しかし、過激な言動から「英国のトランプ」とも言われるジョンソン英首相が、3月末に新型コロナに感染した前後の支持率のデータを見ると、感染によって再選の可能性がついえたと考えるのはまだ早いのかもしれない。ジョンソン首相は世論が分かれていた英EU離脱について、極端な発言で分断をあおるなどの理由から、アンチが多い政治家として知られる。

2019年に米ニューヨークで開催された米英首脳会談。トランプ米大統領はジョンソン英首相を褒めたたえることが多い(写真:AP/アフロ)
2019年に米ニューヨークで開催された米英首脳会談。トランプ米大統領はジョンソン英首相を褒めたたえることが多い(写真:AP/アフロ)

 ジョンソン首相は3月27日に新型コロナウイルスへの感染を発表した。その後、ビデオメッセージで軽症との説明していたが、4月5日に容体が悪化し入院し、翌日には集中治療室(ICU)に入った。症状が改善したため12日に退院したが、首相の執務復帰まで1カ月ほどを要した。

 その間、危機管理の甘さへの批判はあったものの、ジョンソン首相に関する報道が集中し、国民から健康状態を心配する声が日増しに増えていった。ある英国人は、「ジョンソン首相がこんなにみんなから愛されているとは思わなかった」と驚いていた。

 3月下旬からの1カ月は英国で感染者が急増し、病院の受け入れ能力が限界に近づき、連日多数の死者が出るなどコロナ対策で最も苦しい時期だった。にもかかわらず、同情の念からジョンソン首相への好感度は大幅に高まったのだ。これは各種データが示している。

 英調査会社ユーガブが実施した2月24日と4月20日の英国民およそ1600人を対象とした調査を比較すると、感染の前後で評価が劇的に変わっていることが分かる。ジョンソン首相に対する好感度を聞いたところ、2月24日には「好感を持てる」と答えた人の割合が42%で前回調査と同水準だったが、感染後の4月20日には58%まで急上昇した。

 また、「強い」か「弱い」かを聞いた質問では、2月24日に「強い」と答えた人が49%だったが、4月20日には61%まで伸びた。そもそもジョンソン首相に対しては差別的な発言などから信用ならないという悪評が多く、2月24日には53%と過半数が「信用できない」と答えていたものの、4月20日にはそれが42%まで下落した。

 調査会社イプソス・モリの4月10日〜13日の調査でも好感度が急上昇している。1069人の英国民を対象とした調査では、4月にジョンソン英首相を「好き」と答えた人の割合が51%と3月上旬に比べて17ポイントも上昇した。3月上旬には「嫌い」と答えた人の割合が「好き」と答えた人のそれを上回っていたものの、4月には逆転した。

 確かにジョンソン首相の感染と入院、回復のストーリーはドラマチックで、退院後の初めての演説は、英国中の耳目を集めた。その中で、ジョンソン首相はいつにも増して情熱的なスピーチを展開。長短のフレーズをリズミカルに織り交ぜ、時折、膝を使って身を前方に乗り出すなど言葉と体の動きで躍動感を表し、健在ぶりをアピールした。こうした一連のストーリーが、好感度の上昇につながった面は否めない。

 トランプ大統領は74歳と高齢で、どの程度回復できるかは分からない。症状が悪化すれば、大統領選からの撤退も可能性はゼロではない。しかし、ジョンソン首相のように劇的に回復し、そのストーリーを国民にうまく提供した場合には、むしろ選挙戦にプラスに働くかもしれない。もちろん単純に比較できない点もあるので、それは後ほど指摘する。

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