ボッシュは従業員のリスキリングのために、社内で様々な研修コースを用意している
ボッシュは従業員のリスキリングのために、社内で様々な研修コースを用意している

 ドイツでは電気自動車(EV)シフトに伴い、自動車関連の雇用が急減するという悲観的な見通しがある。EVはガソリン車などの内燃エンジン車に比べて部品点数が少なく、開発や生産に必要な人員が少なくなるからだ。

 調査機関が様々な予測を発表している。ドイツ最大の労働組合IGメタルのホフマン会長は2018年、フラウンホーファー研究機構に委託した調査を基に「15万人超の雇用が失われる可能性がある」と述べた。20年には、ドイツ連邦政府の諮問機関である「モビリティの未来に関する国家プラットフォーム」が発表した調査で、最悪の場合「41万人の雇用がリスクにさらされる可能性がある」と言及した。

 21年には、Ifo経済研究所がドイツ自動車工業会の委託を受けて実施した調査の結果を発表。30年までに内燃エンジン関連の21万人分の雇用に影響が出る可能性があると警告した。様々な予測があるが、ドイツ国内の自動車産業の従事者は約78万人といわれており、多くの従業員が影響を受けることになる。

 しかし、こうした予測には「ただし書き」もある。Ifoの予測では「自動車メーカーがEVへの移行と従業員の再教育を十分かつ迅速に行うことができなければ」という前提だ。逆に言えば、適切に従業員を再教育できれば、雇用の減少を抑えられるという予測でもある。実際、EVなどに事業構造の転換を進める企業は、従業員の再教育に力を入れている。

ボッシュ、全世界の40万人を対象としたリスキリング

 大胆な動きを見せているのが自動車部品で世界最大手のボッシュだ。同社もEVシフトなどで事業構造が変わりつつあり、世界で約40万人を対象にリスキリング(学び直し)に力を入れている。21年までの5年間で10億ユーロ(約1400億円)を投じて、従業員のリスキリングを支援してきた。さらに今後5年間で10億ユーロを投資する予定で、10年間で20億ユーロ(約2800億円)の投資となる。

 同社の人事担当の取締役であるフィリズ・アルブレヒト氏は「従業員の技術や適性をどのように将来の新技術に生かすかについて、常に考えている」と述べる。特にEVシフトに当たりソフトウエア開発者の需要が急増している。実際のリスキリングはどのような工程を経るのか。同社で内燃エンジンの開発部門に所属していたセリーナ・イエーツさんの事例を見てみたい。

次ページ 内燃エンジン技術者が学んだ研修プログラムとは