英国のトラス新首相は、保守党の党首選の際から大規模減税を公約として掲げていた(写真:ロイター/アフロ)
英国のトラス新首相は、保守党の党首選の際から大規模減税を公約として掲げていた(写真:ロイター/アフロ)

 9月23日、英トラス新政権の「ギャンブル」に市場が激しく反応した。

 クワーテング財務相が同日打ち出したのは、大規模な減税だった。エネルギー価格高騰の対策に10月からの半年間で約600億ポンド(約9兆3000億円)を投じることを発表したほか、2023年4月に予定していた法人税率の引き上げを凍結することを明らかにした。中期的に国民保険料の引き下げなど様々なメニューを盛り込み、50年ぶりの規模の大減税となる。同財務相は英議会で「我々の政策は経済成長を実現することに集中している」と述べた。

 トラス新政権は減税分の資金を補うために、国債の発行を増やす方針だ。財政が悪化する可能性があるほか、景気への効果も不透明であるため、通貨と国債、株がいずれも売られる記録的なトリプル安となった。英通貨ポンドは対ドルで37年ぶりの安値に沈み、英国債利回りは大幅に上昇し、英FTSE100種総合株価指数が前日比で一時2%強下げた。

 市場で財政悪化の不安が高まっていたにもかかわらず、クワーテング財務相はその後も大減税の意義を強調し、財政安定化の道筋を明示しなかった。そのためポンド安は止まらず、9月26日には一時1ポンド=1.03ドル台まで下落し、過去最安値を記録した。大型減税発表の前日である22日からの下落率は最大で9%に達した。

 米アトランタ連銀のボスティック総裁は26日、英国の政策に対する市場の反応について、「経済に不確実をもたらす懸念と恐怖を表している」と述べた。英国のみならず、世界経済にとっても懸念材料になっている。

G7で最悪のインフレ

 もともと英経済は苦しい状況に追い込まれていた。7月の物価上昇率は10.1%と2ケタに乗せ、1982年以来の高水準となった。これは主要7カ国(G7)で最も深刻なインフレである。2023年初頭にインフレ率が20%を超えるとの予測もある。

 ロシアから欧州への天然ガス供給が急減し、短期のガス市場が高騰。そこからガスを調達する英国のエネルギー価格が急上昇している。あまねく食品の価格が上昇しているほか、日用品も値上がりしている。

 さらに英国の欧州連合(EU)離脱で移民などの労働者が減少し、供給制約からインフレが加速している面もある。賃金上昇が物価上昇に追いついていないため、英国では鉄道や港湾の労働者によるストライキが相次いでいる。

 急激な物価上昇は経済に悪影響を及ぼしている。英国の22年4〜6月の実質国内総生産(GDP、速報値)は0.1%減とマイナス成長だった。英イングランド銀行(中央銀行)は、7〜9月もマイナス成長と予測している。国際通貨基金(IMF)は23年の英国の経済成長率を0.5%と予測しており、G7で最も低い数字となっている。

 そこで、英次期首相を決める与党保守党の党首選では、経済対策が最大の焦点になっていた。トラス氏は当初から大規模な減税を公約として掲げていた。

 一方、財務相だったスナク氏は増税という正反対の施策を主張していた。新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退からの回復を図るための補助金などで財政が悪化したため、増税で財政再建を進める方針だった。両氏の対立構造は鮮明だった。

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