「暗黒の90年代」に王室の財政改革
実際に行列に沿ってしばらく歩いてみても、秩序正しく並んでいる様子がうかがえた。エリザベス女王と歩んだ日々を確かめるように、長い道のりを静かに歩いていた。

なぜ、女王はここまで人気があるのか。その理由として、英国に尽くした献身や、愛らしいユーモアなど様々な観点が取り上げられている。その1つとして、英王室の改革を進めた点も見逃せない。
改革の原点は1990年代にある。92年に王室の公邸であるウィンザー城が火災に見舞われ、一部の施設が焼け落ちた。当時、不景気に苦しむ英国民が多い中で、その膨大な修復費を税金で負担することに不満が高まった。
また、チャールズ皇太子(現国王)とダイアナ妃の不仲などスキャンダルが続出し、王室のぜいたくな暮らしにも批判が高まっていた。2人は離婚し、97年にはダイアナ妃がフランス・パリの交通事故で亡くなり、すぐに弔意を示さなかった女王は国民の強い批判を浴びた。女王や英王室にとって暗黒の90年代といわれている。
これらの苦境を脱するために、女王は王室の財政改革に乗り出した。それは収益力の向上と経費削減である。収益力向上の象徴的な例が、ウィンザー城の修復費をまかなうために、93年からロンドン中心部にあるバッキンガム宮殿の有料一般公開を始めたことだ。

この取り組みは大成功だった。世界中から観光客が訪れ、人気の観光スポットになった。それ以降、女王がスコットランドに滞在する夏の期間に、公開が続いている。同宮殿には貴重な美術品が多いほか、手入れの行き届いた庭園もあり、入場客は優雅なひと時を楽しめる。王室はこの入場料収入や土産品の販売というビジネスに力を入れている。
国民の支持を回復するために女王は露出を増やし、国民に寄り添ったメッセージを積極的に発信するようになる。宮殿の公開は、この両面に資する取り組みだった。
王室の経費削減にも着手
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