「『群戦略』を発明したと人々に覚えてもらいたい」

 このアーム買収の前に、孫会長は「群戦略」という概念を打ち出し始めた。ソフトバンクグループの資料では群戦略をこのように説明している。「特定の分野において優れたテクノロジーやビジネスモデルを持つ多様な企業群が、それぞれ自律的に意思決定を行いつつも、資本関係と同志的結合を通じてシナジーを創出しながら、共に進化・成長を続けていくことを志向するもの」

 そして、アーム買収後に孫会長は対外的に「AI(人工知能)群戦略」という概念を積極的に公言するようになった。18年の株主総会では「『群戦略』を発明したと人々に覚えてもらいたい」と発言。青年期より発明に重きを置く孫会長にとって、「群戦略」という概念の創造は、とりわけ重要な意味合いがあった。

ソフトバンクの孫正義会長兼社長は決算説明会などで度々、群戦略について語った
ソフトバンクの孫正義会長兼社長は決算説明会などで度々、群戦略について語った

 アーム売却は、その群戦略を根底から揺るがしかねない。群戦略には単にAI関連の有望企業に出資するだけでなく、20〜30%を出資して筆頭株主になり、出資先企業同士のシナジーを促す狙いがある。例えば、ソフトバンクグループは米ウーバーテクノロジーズに15%超を出資し、アリババへの出資比率は多いときで3割を超え、今も25%程度を保有すると見られる。

 アームはソフトバンクグループの子会社であり、まさに群戦略の中核となる企業だった。「20年という単位で見れば、アームの(ライセンス供与を受け製造された)1兆個のチップが地球上にばらまかれ、森羅万象をより広く深く把握できるようになる」とも話していた。

 ソフトバンクグループは取引完了後に、エヌビディア株の保有比率が6.7%~8.1%になる。エヌビディアはアームを買収し、AI向け半導体で覇権を握る構想を持つ。しかし、ソフトバンクグループの群戦略という観点から見ると、エヌビディアについては出資比率が低いため経営への関与は限定的になるだろう。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り1357文字 / 全文3388文字

日経ビジネス電子版有料会員なら

人気コラム、特集…すべての記事が読み放題

ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題

バックナンバー11年分が読み放題

この記事はシリーズ「大西孝弘の「遠くて近き日本と欧州」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。