スマートフォンの課金の仕方に近くなる

自動車の総需要やエネルギーの総需要、それぞれの単価が変わらなければ、マーケットとしてのサイズはあまり変わらず、それを誰が取っていくかという「限られたパイの奪い合い」の話になりませんか。

深尾氏:その観点で言うと、車の1生産台数当たりの課金じゃなくて、走行距離当たりの売り上げが大事になります。これは、スマートフォンの課金の仕方に近いと思います。いわゆるコネクテッドカーが1マイル、1キロメートル走る間にどれだけ課金させるのか。そこを市場として見るべきだと思います。

 欧州は成熟地域なので人口は増えないでしょう。台数で議論するのは、あまり重要ではありません。エンジン搭載車は減り、EVは増えるけれども、自動車の販売自体は減るのではないでしょうか。

 自動車のユーザーとしての単価は、下がるかもしれません。ただ、一方で自動車を使う人数は増える可能性があります。今は高齢化で免許を返納し、ユーザーが減る傾向にあります。それに対して、今後の世代はシェアリングのような形で、車の稼働率は高まり、そこに課金されていく仕組みがあり得ます。オーナーシップではありませんが、モビリティーはより身近になってくるのかもしれません。

 人とモノを運ぶ商用EVの普及が増え、車の「鉄道化」が進むのではないでしょうか。鉄道は他のシステムとITでつながっていて、ほぼ自動運転であり、複数の乗客がシェアする電動車ですから、まさに「CASE」ですよね。地域住民のニーズに合ったモビリティが鉄道ですから、「スマホ化する自動車」は地域経済の活性化につながります。歴史的に数多くの都市国家が発展した欧州では、EV化推進のもう一つの目的に都市の活性化があります。

 物量を増やしていくという第2次世界大戦後の消費社会は、限界にきているのではないでしょうか。メーカーにとっても、ユーザーエクスペリエンスに対してどれだけ課金できるのかということが重要になると思います。(続きは、9月15日の日経ビジネスLIVE「電気自動車で日本は勝てるのか 専門家が読み解く『欧州の野望』」をお聞きください)。

 世界的なカーボンゼロの流れが、自動車業界の構造変化を加速する。生き残るのはどこか。伊藤忠総研の深尾三四郎・上席主任研究員が、新著『モビリティ・ゼロー脱炭素時代の自動車ビジネス』で、先端動向を解説します。事前予約の受け付けを始めました。

 脱炭素はポリシーメーカー(政策立案者)が編み出したものです。ポリシーメーカーの立場で、なぜこのようなゲームチェンジを仕掛け、なぜ新しいルールをつくり、それは何を目的・狙いとしているのかを理解することが最も重要です。脱炭素への対応は、まず「ルールづくり」の理解と関与が先にあって、「モノづくり」はその後に取り組むべきことです。日本企業の多くは順番が逆になっています。別の言い方をすれば、脱炭素やSDGsといった欧州発のルール・ゲームにおいては、日本の産業や企業はルールメーキングの意味を理解し、そこに携わることができれば、この難局を乗り越えることができると思います。(まえがきより)

この記事はシリーズ「大西孝弘の「遠くて近き日本と欧州」」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。