欧州は4、5年前からルール作りを仕込んでいた

深尾氏:電池指令も含めた脱炭素という大きなくくりの中でのこのルールメーキングというのは、おそらく2016年、17年ぐらいから周到に準備されていたのではないでしょうか。

 16年のパリ自動車ショーで、当時独ダイムラーCEO(最高経営責任者)だったツェッチェ氏がCASE(ネット接続、自動運転、シェア、電動化)という言葉を使ってから、もう翌年に欧州バッテリー連盟(EBA)という組織が組成されています。分科会も活発に行われて、そこからぼこっと出てきたのがスウェーデンの電池スタートアップであるノースボルトですね。今まさに国策企業のようなノースボルトの動きがそこを体現しています。

16年に創業したスウェーデンのノースボルトが建設中の巨大電池工場。同社は欧州投資銀行から融資を受けている
16年に創業したスウェーデンのノースボルトが建設中の巨大電池工場。同社は欧州投資銀行から融資を受けている

 欧州委員会は雇用創出のためにEVシフトを促し、車載電池を中心に自動車産業と再生可能エネルギー産業をくっつけ、そこでEVの経済圏を作ろうとしています。これが根底にあり、日本の政策との一番の違いですね。私はほとんど政策議論だと思っているんです。メーカーの技術の議論ではなくて、地域や国家の政策議論です。日本でも自動車と発電産業をセットでとらえないといけません。

 雇用創出という観点では、米国のバイデン大統領も同じようなことをやり始めています。EVのとりわけ車載電池というものを中心に据えた新しい経済圏を作り、雇用を生んでいく。その雇用獲得競争の様相を呈してきています。

 これはもう日本にとって、対岸の火事ではなくなってきています。国境炭素税により、排出枠取引などCO2(二酸化炭素)を削減する努力を錬金術でお金に換え、CO2を削減していない製品に関税をかけていくからです。日本の自動車産業は、もう外堀を埋められてしまっているのではないでしょうか。

 EVを何万台作らなければならないとか、車載電池のコストがどれだけ下がるかとかいう、そういうそのものづくりの議論は重要ですが、ルール作りの競争という観点とは土俵が違います。日本は、ものづくりの競争に目がいきがちなのは理解していますが。

雇用は非常に重要です。エンジン生産関連の雇用は減っていくことになりそうですが、それをEVシフトでどのようにカバーするのでしょうか。

深尾氏:EV化で部品点数が減るので、雇用が減るというのは正論だと思います。ただ、それは自動車産業という枠組みだけでしか見てないから、そのようになるわけですね。デジタル産業として車をとらえるのであれば、違った景色が見えます。

 すなわちV2Xと言いますが、車と周辺環境とをつなげていくという中でデジタル化、いわゆるデータで稼ぐというビジネスモデルに変えていきます。単純な配置転換はできないかもしれませんが、新たなビジネスで雇用を増やすという方法があるのではないでしょうか。それを1つの企業の枠の中でとらえるのは少し難しいので、アライアンスやコンソーシアムというのを組むことに意義があると考えています。

 1つ具体的な事象ですと、19年に独ボッシュのフォルクマル・デナー会長がこんな話をしました。ディーゼルエンジンなどで用いられるコモンレール式の燃料噴射装置の生産に関連し、多くの雇用を生み出しているため、ディーゼルエンジンが必要なくなると、雇用が減ってしまうと話しました。

 その一方でデナー会長は、データで稼ぐという方向で化けようとしていることを示しました。センサーや半導体関連の事業を強化し、デジタル産業のサプライヤーとしても存在感を高めています。同じく独部品大手のコンチネンタルやZFも同様の取り組みをしています。

 エンジン関連の雇用が減るのは間違いありません。それに対応するように政策のサポートもあります。欧州では「ホライズン・ヨーロッパ」という仕組みで、かなり巨額の研究開発の支援ファンドがあります。その中でデジタル関連は、ネクスト・ジェネレーション・インフラストラクチャーと位置づけられ、補助金がつきます。

 欧州委員会は、デジタル化やクラウド構築の研究開発資金のほとんどを占める人件費に、補助金が行き渡るように政策支援をパッケージとして組み込んでいます。これが比較的しっかりしている点が、欧州と日本との大きな違いだと思っています。

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