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 退任を控え外交が評価されている安倍晋三首相は、東欧諸国とも連携してきた。チェコ、スロバキア、ポーランド、ハンガリーの4カ国首脳とは定期的に会談。2019年も首脳会議を開き、経済連携の拡大を協議した。日本からは遠い存在に映る東欧諸国と関係強化を図っていたのは、中国へのけん制の意味合いもあったといわれる。

 中国は08年のリーマン・ショック以降、東欧諸国にインフラ建設や貿易などで積極投資し、関係強化を図ってきた。広域経済圏構想「一帯一路」について東欧諸国と覚書を交わし、西欧の玄関口となる同地域で影響力を強めてきた。

 米国や欧州連合(EU)が東欧に様々な働きかけをしても、中国への傾斜はなかなか止まらなかった。大統領選での不正疑惑を巡って辞任を求めるデモが繰り返されているベラルーシのルカシェンコ大統領とも中国は深い関係を築いてきた。

 だが、新型コロナウイルスの流行で風向きが変わりつつある。中国の強権主義があらわになってくると、いくつかの東欧諸国の対中戦略にも変化が表れてきた。まずは、東欧の中でも民主主義への共感が強いチェコが大胆な動きを見せた。

中国との距離感:目次(予定)
第1回:英国、ファーウェイ完全排除で負う代償
第2回:英国の「ご都合主義」に牙をむく中国マネー
第3回:英弁護士「香港人の英国移住は難しい」
第4回:英教授「学生同士が『香港発言』監視の恐れ」
第5回:英元外交官「英国人は中国に無関心だった」
第6回:嫌米と中国依存に揺れるメルケル独首相の花道
第7回:チェコ上院議長の台湾支持、対中で割れる東欧
第8回:新型コロナで中国批判強まったイタリアの今

チェコのビストルチル上院議長は台湾を訪問し、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と面会した(写真:CTK Photobank/アフロ)

 東欧チェコの要人の「台湾支持」が波紋を広げている。

 8月30日、同国のミロシュ・ビストルチル上院議長は経済人や研究者を伴い、国交のない台湾を公式訪問した。台湾の国会に当たる立法院で演説したほか、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と面会した。

 チェコは多くの犠牲を払いながら民主化を勝ち取った歴史がある。そのため、ビストルチル上院議長は立法院で、「困難な状況で民主主義を守ろうとする人たちを支持することは、すべての民主主義者の義務である」と語った。

 さらに、米ソの冷戦下において米国のケネディ元大統領がドイツの西ベルリンで行った演説で、「私はベルリン市民だ」と発言したことにならい、「台湾、そして自由という究極の価値への私の支持を示したい。私は台湾人だ」と締め括った。この発言に呼応し、チェコ首都のフジプ・プラハ市長も「私は台北市民だ」と述べた。

 中国政府はチェコ要人の台湾支持に怒り心頭だ。中国政府は、中国大陸と台湾は1つの国に属するという「一つの中国」を主張している。中国政府は「中国への内政干渉であり、主権を甚だしく侵害している」と非難。欧州を歴訪していた王毅(ワン・イー)外相は「レッドライン(越えてはならない一線)を越えた。重い代償を払わせる」と威嚇した。

 これに対して、王毅外相と共同会見に臨んだドイツのマース外相は、「脅しはふさわしくない」とけん制した。ノルウェーが中国の人権活動家、劉暁波氏にノーベル平和賞の授与を決めた際に、中国向けサーモンの禁輸措置が取られており、欧州各国が同様の事態を警戒している。

 既にチェコにも影響が出ているようだ。同国の報道によると、中国政府からチェコ製品に禁輸措置を科され、老舗ピアノメーカー「ペトロフ」のピアノの注文が取り消されているという。ただ、英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のスティーブ・ツァン教授は、「チェコは中国との経済関係はそれほど深くないため、経済制裁の範囲は限られるだろう」と指摘する。