ドイツのショルツ首相は、同国とロシアを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」のタービンを視察。ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムは、このタービンの返却が遅れているためにドイツへのガス供給を減らしていたと主張していた(写真:ロイター/アフロ)
ドイツのショルツ首相は、同国とロシアを結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム」のタービンを視察。ロシアの国営天然ガス会社ガスプロムは、このタービンの返却が遅れているためにドイツへのガス供給を減らしていたと主張していた(写真:ロイター/アフロ)

 欧州ではウクライナ戦争への関心が薄れ始め、急速に自らの生活への懸念が高まっている。欧州最大の経済大国ドイツで今、国民の関心を最も集めるのはインフレだ。

 コンサルティング大手の米マッキンゼー・アンド・カンパニーが6月、1000人以上のドイツ国民を対象に「最も懸念すること」を聞いたところ、48%が「急激なインフレ」と回答。73%は節約のためにすでに消費行動を変えているという。4月には34%が「ウクライナ侵攻」と答えたが、6月にはその割合は24%にとどまった。「新型コロナウイルス」と答えたのは4%程度だ。

 実際、インフレが生活に大きなダメージを与えている。7月のエネルギーインフレ率は35.7%に達する。比較ポータルサイトCheck24によると、ガス料金はすでに過去最高水準にあり、エネルギー消費量2万キロワット時のモデル世帯では年間平均3415ユーロ(約47万円)と、1年前の1301ユーロと比べ2.6倍となっている。電気代も上昇しており、生活に不可欠なエネルギーが家計を圧迫している。

 食料のインフレも深刻だ。エネルギーのインフレで輸送費などがかさみ、7月のインフレ率は14.7%になった。1年前に比べ、バターが48%、チーズが23.1%、全乳が24.2%、卵が23.9%、肉および肉製品は18.3%の値上がりとなっている。2016年にバター250グラムを買えていた価格で、今は半分以下の118グラムしか買えない。

巨額赤字のガス会社を救済するためにガス値上げを容認

 もちろん、主な原因はウクライナ戦争だ。西側諸国は国際送金システムである国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアを締め出し、ロシアの中央銀行の海外資産を凍結するなど、ロシアに様々な経済制裁を科している。ドイツはロシアとの間を結ぶガスパイプライン「ノルドストリーム2」を建設したものの、稼働を凍結した。

 こうした制裁がブーメランのようにドイツに返ってきている。ロシア国営ガスプロムがドイツと結ぶ主要パイプライン 「ノルドストリーム」の供給量を6月中旬、従来計画比で6割減らした。そのため、8月中旬には、欧州天然ガスの指標価格であるオランダTTF(9月物)が1メガワット時当たり250ユーロと、1年前の5倍以上の価格になっている。

 独エネルギー大手のユニパーは、天然ガスの不足から割高なスポット市場でガスを調達しており、22年1~6月期の最終損益が120億ユーロ(約1兆6500億円)の赤字だった。同社を救済するために、10月以降スポット価格分の9割を顧客に転嫁できるようになるため、ガス価格の上昇は不可避で、インフレの懸念が強まっている。

 ドイツはロシアに経済制裁を課したが、実質的には逆にドイツがロシアから経済制裁を受けているような状況だ。

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