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 英メディアが連日、香港の情勢を報じている。8月10日には香港国家安全維持法により香港紙、蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏や民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏が逮捕され、その後の保釈の様子も積極的に取り上げている。

 英政府が英国海外市民(BNO)旅券の保持資格のある香港市民に英国での市民権取得を促す方針であり、英国民の間で中国関連のニュースに対する関心が高まっている。

 英調査機関ユーガブが6月末に1626人の英国人を対象に実施した調査によると、「香港市民に対する英政府の提案を認めるか否か」との質問に対し、64%が「認める」、22%が「認めない」、14%が「分からない」と回答した。英国のEU離脱(ブレグジット)においては移民の受け入れに難色を示した国民が多かったことを考えれば、非常に多くの人が支持を表明している。

 こうした状況の中で長年、英国と中国の関係を調査、研究していた専門家は、今後の両国関係をどのように見ているのだろうか。英国の専門家に話を聞いた。最初に紹介する英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のスティーブ・ツァン教授は、英中関係の緊張の高まりと共に学生への影響を懸念している。

中国との距離感:目次(予定)
第1回:英国、ファーウェイ完全排除で負う代償
第2回:英国の「ご都合主義」に牙をむく中国マネー
第3回:英弁護士「香港人の英国移住は難しい」
第4回:英教授「学生同士が『香港発言』監視の恐れ」
第5回:英元外交官「英国人は中国に無関心だった」
第6回:対中戦略の修正を迫られるドイツ
第7回:コロナで深まったイタリアの苦悩

スティーブ・ツァン氏。英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)。1959年、香港生まれ。81年、香港大学で学士号を取得。86年、英オックスフォード大学セントアントニーズ・カレッジで博士号を取得。中国と香港、台湾に関する著書多数

英国と中国の関係は今、どのような状況にあると思いますか。

スティーブ・ツァン英ロンドン大学東洋アフリカ研究学院教授(以下、ツァン氏):両国の関係は転換期にあります。英政府は中国の華為技術(ファーウェイ)の次世代通信規格(5G)への参入許可を取り消し、英国海外市民(BNO)旅券を保持する香港市民に英国の市民権を取得する道を開きました。中国政府はこれを敵対的行為とみなすでしょう。中国政府がそのような行為について、英政府に制裁を加えることは間違いありません。

今後、両国の関係はどのように変わっていくと思いますか

ツァン氏:関係がどのように変わるかは、どのように中国政府が英国に制裁を加えるかによります。米国からの圧力が後押しになりましたが、英政府は主にファーウェイに対する新しい安全保障評価に基づいて判断しました。中国の最近の行動に深刻な懸念を抱いた政権与党の保守党内の意見が台頭し、この評価は厳しくなりました。

 しかし、英政府がファーウェイに関する決定において、中国に配慮したのは明らかです。ファーウェイの機器購入を年末まで許可することは、明らかに中国政府をなだめるためのものです。

 この英政府の試みはうまくいかないでしょう。中国政府はこれまでファーウェイとの契約がこじれないように、英国が香港人に英国の市民権取得を促す方針について大きな反応をしてきませんでしたが、ファーウェイの完全排除が決まった今、中国政府は英国にアクションを起こすでしょう。

 中国政府の次のアクションは、共産党とファーウェイとの間の関係に光を当てると思います。 ファーウェイが民間企業である場合、猶予期間を最大限に活用するはずです。5G向け機器の販売が禁止される前に、関連機器をできるだけ多く販売し、4Gや3Gの通信ネットワーク内の機器に関するサポート計画を練るでしょう。ファーウェイがそれを実施せず、代わりに英国の通信ネットワークを混乱させることを選択した場合、それは中国政府の片腕であることが明らかになります。

英国の企業や個人が中国政府の標的になる可能性も

英国は具体的に中国政府からどのような報復を受ける可能性があるのでしょうか。

ツァン氏:中国政府は報復について、人々の想像力を喚起させています。中国政府はオーストラリア政府の発言を内政干渉とし、オーストラリアからの輸入を制限しました。カナダでファーウェイ幹部が逮捕された後に、中国でカナダ人を逮捕しました。

 こうした経緯を参考にすると、英国の企業、機関、または個人が中国政府の標的とされる可能性があることを覚悟する必要があります。これは、中国には「報復」する合理的な根拠がないという現実があるにもかかわらずです。

 英国のほとんどの行為は、中国に対して敵対的ではありません。英政府の決定によってファーウェイは、中国における英国企業の立場よりも不利な立場になる訳ではありません。中国において英国企業は、国家安全保障に関わるプロジェクトはもちろん、中国の重要なインフラプロジェクトに参加することは許可されていないからです。